犬本―【海外/タ】―その1

ダーシェンカ Dasenka

カレル・チャペック Karel Capek

伴田良輔・訳 新潮社/新潮文庫 400円 [Amazon]

 絵本。ダーシェンカはフォックステリアの小犬。「ダーシェンカのための八つのおとぎ話」は、“やんちゃでおちゃめなダーシェンカをなんとかして静かにさせようと、作者がそばで語って聞かせる寝物語”。うっとりするようなモノクロ写真集「ダーシェンカのアルバム」付き。原著とは構成が違うとあるが、ぜんぶ見たいなあ。なんとも心あたたまる一冊。(白耳)

★★★★


ダーシェンカ 小犬の生活 DASENKA cili zivot stenete

カレル・チャペック Karel Capek

伴田良輔・訳 新潮社/新潮文庫 400円 [Amazon]

 『ダーシェンカ』の続編。1933年に出版された『ダーシェンカ』第一章の全訳。わかりにくいな。1933年の原著『ダーシェンカ』がどうなっているかというと、第一章『ダーシェンカ、あるいは小犬の生活』、第二章『小犬の写真を撮影するには』、第三章『ダーシェンカのための八つのおとぎ話』、第四章『ダーシェンカのアルバム』という四部構成。つまり先に出た『ダーシェンカ』は二章以下で、本書『ダーシェンカ 小犬の生活』が第一章。訳者の解説に“第一章は残りの章と文体も少しことなり、あらためて独立して一冊にまとめたいと考え”「続編」とした、という説明あり。
 わたしには本を奥付けや出典一覧から読むという浅ましい癖があるが、最終ページの版面左右中央の一行「ダーシェンカ、いい子でいるんだよ」にはほとほと参った。こういうの、ほんとだめ。いっぱつで腰砕け。とほほ。(2001.3.12 白耳)

★★★★


犬のディドより人間の皆様へ One Dog And Her Man By Dido

ディド著 チャップマン・ピンチャー協力) Chapman Pincher

中村凪子・訳 草思社 1800円 [Amazon]

 ラブラドール・レトリーバーのディドが語る犬の話。

 しかし、ディドが賢くて器用だとは言え、わたしのワープロはつかえそうもない。それでも、彼女は彼女なりにいくつもの伝達方法をあみだしているので、それを用いてわたしの頭に吹き込んだにちがいないさまざまな犬の思考を、いわば口述筆記するような役をわたしはつとめることにした(中略)犬キチの「ゴーストライター」が、犬に人間の属性を付して容認しがたいまでに擬人化しているというので、このような手法に非をとなえる識者もあろうかと思うが、この本は、科学者、ブリーダー、犬の訓練士などの専門家のための本ではなく、数から言えば圧倒的に多い、犬を愛する人々のための本である。(「チャップのまえがき」より)
 協力者はけっこうまわりくどいタイプらしい(笑)。ピンチャー夫妻と暮らすようになった経緯、なわばり、嗅覚など犬の感覚、知能、コミニュケーション、食事、睡眠、散歩、シーズンなど、内容濃く、読みごたえじゅうぶん。(白耳)

★★★★


犬たちの隠された生活 The Hidden Life Of Dogs

エリザベス・M・トーマス Elizabeth M.Thomas

深町眞理子・訳 草思社 1600円 [Amazon]

 冒頭で“これからあとのページでわたしが描こうとしているのは、11頭の犬のグループ――5頭の雄と6頭の雌――の生活記録である”と述べられているように、自らの飼い犬たちの長年に渡る観察記録である。
 わたしは一頭のボーダー・コリーと暮らしているが、飼い始めの頃はわからないことだらけだった。犬について書かれた本や雑誌を読みあさり、また、獣医師を始めとする専門家の指導も受けたが、もっとも信頼できたのは、同じ犬の飼い主さんの話だった。著者は人類学者であり、いちいちの考察に専門知識の裏打ちがあることは確かだが、書かれていることの大半は、著者が“この目で見てきたこと”で、飼育環境の違いこそあれ、非常に興味深く読むことができる。愛犬家必読の書。(白耳)

★★★★★


犬たちの礼節ある社会生活 The Social Lives Of Dogs

エリザベス・M・トーマス Elizabeth M. Thomas

木村博江・訳 草思社 1900円 [Amazon]

 名著『犬たちの隠された生活』のその後。トーマス家はニューハンプシャー州ピーターバラに転居。「所帯が大きかった頃は」人間5人、犬7頭、猫9匹、オウム5羽というから羨ましい限り。日本では宝くじでも当たらなければ無理でしょうねえ。『〜隠された』のほうでおなじみのスエッシ、イヌックシュック、ファティマはすでに老齢に達しており、3頭揃ってよれよれと犬としての営みを続けているらしい様子がなんとも。そこへ登場するのが、著者が偶然出会った「異種混合集団の発端」サンドッグ。そしてベルジアン・シープドッグのミスティ、オーストラリアン・シェパードとチャウチャウの混合パール、くせものルビー、夢の犬シーラと続く。著者のいう「異種混合集団」にはもちろん人間も含まれている。

 ある晩、ミスティが起き上がってこっそり下に降りていく物音が聞こえた。犬用のくぐり戸がカタンと鳴り、外に出ていったようだった。おそらく用を足しに出かけたのだろう。ほどなくしてもどってきたミスティの被毛は、冷たく濡れていた。
 私は身じろぎもせず声も出さなかったが、彼女には私が目を覚ましているのがわかった――犬たちはいつも察し取るようだ。彼女はそっとベッドのわきにくると、頭を私の肩に乗せた。顔を押しつけてきたので、私は彼女の体に腕を回した。おたがいのあいだに愛情の波がかよった。ベッドの反対側では、サンドッグがそれを感じとり、やさしく尾で床を叩いた。集団のメンバーが愛情を示しあうのを見ると、犬はときどきこの動作をする。そして眠っている夫も感じとった。あるいはサンドッグの尾がたてる音を聞いたのだろう。眠ったまま、彼は私に腕を回した。(p.83-84)
 世の中、これ以上の幸せがあるだろうか?(2000.9.5 白耳)

★★★★★