カニスの血を嗣ぐ Sanguis Canis
講談社/講談社ノベルス 980円 [Amazon]
冒頭いい。夕暮れ時の住宅街。電柱の下で四つん這いになっている男。嗅覚が極度に発達したその男は、犬の尿に残された伝言を読みとっている。(空腹だ)(地下に宝)(新しい匂い)(走れ)。そして男は、顔見知りの犬ブラッキーの死に遭遇する。死体に残された匂い。その夜、男はバーで出会った女に同じ匂いを嗅ぐ。
“鼻利き”の話はほかにもあるが、本書の鼻は「犬」である。犬のように嗅ぎ、犬のように理解する。物語的にはも少しどうにかなったような気がしないでもないが(とくに終盤)、発想力と言葉遣いのセンスに今後期待。(1999.9.13 白耳)
★★★☆
1999.8.5初版。尋常ではないくらい――犬と同程度に――嗅覚の発達してしまった男。元広告代理店勤務のサラリーマンで今はバーテン。交通事故で片目をうしない、神戸でバーを営んでいる。その主人公、阿川の周囲に起こる異常な事件。
犬のように嗅覚が鋭い、という設定が面白い。犬の残したにおい(おしっこの、ね)で犬たちのコミュニケーションを察知したり、人間の発するにおいでその人の感情などもわかってしまう。便利といえば便利だが、これほどいやなこともないだろうな。
事件そのものはさほど目新しいわけではない。まあそうだろうなというような“隠された真実”があり、主人公の“窮余の策”も推測された通り。文章も、またまた重箱の隅をつつくが、緻密さに欠ける(これがデビュー二作目)。
ただただ、犬並の嗅覚の持ち主、という設定だけで評価して、星3つです。この発想のユニークさを、より丹念に形にしていってほしい。(1999.8.25 黒鼻)
★★★
集英社 1300円 [Amazon]
第18回小説すばる新人賞受賞作。★★★★
集英社 1800円 [Amazon]
新井満の連作短編集。初出『すばる』2001.2〜2002.2月号。
柊はカメラマン。ハナコは3歳になるメスのミニチュアダックスフント。
愛人に去られ、妻との離婚を機にハナコと暮らし始めた柊。「女の人と一緒だったでしょう。わたしの知らない女の人の匂いが、少なくとも五種類、柊さんの身体から匂ってきます」――よくしゃべる犬との同棲生活に、男の心象を映す。
カバーの犬は著者の飼い犬のようだ。カバー袖にもブラック&タンのミニチュアダックスフントを抱いた著者の写真が出ている。作中の犬が人間同様にしゃべったり行動するのは、まあご愛敬。そうイヤな感じもしない。見知らぬ人からの間違い電話に始まる『函館』、写真展の作品によせる『ニュージーランド沖に落下』いい。(2002.6.8 白耳)
★★☆
GOOD DOG NEWS! 犬といっしょの、ここちよい生活
アーリストインターナショナル 1300円 [Amazon]
犬グッズ本。第二弾だそうです。かわいくて楽しいが、お友だち自慢たらしいところがちょっとイヤ。著者は犬顔犬性格で、犬雑誌、Webを中心に「ゆる〜いタッチ」のコラムや、好きなグッズの紹介などを執筆しているそうです。巻末にURLがあったので行ってみたら、ほんとにゆるゆるだった。ううむ。(2002.7.8 白耳)
★★
▽ゆるゆる
http://www.blueorange.co.jp/yuruyuru/
オルファクトグラム Olfactogram
毎日新聞社 1900円 [Amazon]
主人公「ぼく」こと片桐稔は、ある事故をきっかけに一ヶ月もの意識不明に陥る。目覚めた稔は、じぶんに超人的な能力が宿っていることに気がつく。全身の血を抜かれて死んだ姉、行方不明のバンドメンバー、そして同じ手口による連続殺人事件。望むべくもない運命に翻弄されつつも、稔の“鼻”は真実に迫っていく。
どうしても『カニスの血を嗣ぐ』を思ってしまうが、こっちのほう(サンデー毎日連載)が早い。バンドやってる若い男の子、かわいい恋人、テレビ局の人々、ばりばり学究肌の先生、警察の皆さんが、揃いも揃っていい人っつーのはちょっと“鼻白”なんだが、一気読み必至の吸引力はさすが。ただ、“鼻”はわかったが、サイコな彼にちと物足りなさを感じる。なんで血ぃ抜くの? で、それ、どこやったの?(2000.4.5 白耳)
★★★★★
2000.1.30初版。「サンデー毎日」に連載された長編小説。二段組で550ページを超える長さだが、二日で一気読み。面白かったあ。
主人公はバンドをやっている青年。姉が連続殺人鬼の犠牲者となり、その現場に居合わせたため犯人に殴られ一ヶ月間意識不明に。目覚めると、不思議なことに、普通の人をはるかに越えた嗅覚の持ち主となっていた。その力を使い現場に残されたわずかな匂いから、犯人を追いつめる、というお話。
しかし井上夢人って、こういう奇想天外なSFチックミステリーはうまいなあ。ぐいぐい読ませる。要するに、主人公には匂いが視覚的に“見えて”しまうんだけど、そのへんのディテールとかがわくわくさせる。イメージ喚起力がつよいというか。
いっぽう、ストーリーレベルでは、じゃっかんの不満は残る。とんとん拍子に進んでしまうこととか、周囲の人間(TVクルーや学者など)が、どうもいい人すぎる(かといってありがちな“番組至上主義”“学術調査至上主義”ばかりじゃつまらんのだけど)こととか、ときおり犯人の行動が挿入されるんだけど、それがいまいち薄いとか(あの猟奇的な行動は、結局なんだったのだ?)。
でも楽しかったのでよしとします。
しかし、すごい嗅覚を持った男が主人公のミステリーというと、昨年出た『カニスの血を嗣ぐ』をどうしても思い浮かべてしまう。『オルファクトグラム』の週刊誌連載は97年からなので、『カニス』のまねをしたわけではないでしょうが(むろん『カニス』が本書のまねをしたというわけでもないでしょう。単なる偶然でしょうね)。しかしどうしても比べてしまう。比べると、やはりキャリアの差というかストーリーテリングの差というか、出てしまいますねえ。(2000.2.2 黒鼻)
★★★★
イヌの力 愛犬の能力を見直す
平凡社/平凡社新書 660円 [Amazon]
学術系犬本。クロマニョン人がネアンデルタール人との競合に勝つことができたのは、イヌを「友」としたからである――さて、イヌはどうやってヒトの「友」になったのでしょう? という内容。犬関係者としては、なんといってもエピソード関係。
オンタリオの採鉱飯場近くに住んでいた盲目のイヌ“シェルパ”はとても用心深く、人間をやたら警戒した。長い時間を要してやっと一人の採鉱夫になついた。ある日、一人の男がこの飯場を訪れたが、シェルパは少々ためらいながらもすぐにしっぽをふってこの男に近づいたのである。人びとは不思議に思ったが、実はこの男とイヌがなついていた採鉱夫とは一卵性双生児であったのだ。(「第三章 イヌの能力を知る」より)
イヌもすごいと思うけど、離れて暮らす成人の一卵性双生児が「同じにおい」というのがすごい。本格推理のトリックにいかが?(笑)(2000.6.13 白耳)
★★★
2000.5.23初版。かなり学術系の「犬本」。前半の、解剖学的なイヌの考察――祖先はオオカミかそうではないのか――は、やや退屈だが、後半、イヌの嗅覚、聴力、視力、超能力(帰巣本能)などについての話は面白かった。
まったく、どうしてイヌには飼い主が帰ってくるのがわかるんだろう。一度試してみましたが、わたくしが電車に乗っている時間帯から玄関で待っていたりして、不思議です。(2000.5.28 黒鼻)
★★☆
集合住宅でペットと暮らしたい [ペットライフ、新時代]
集英社 1400円 [Amazon]
2001.5.30初版。マンションでペットを飼うのに必要な心構えとはなにか。獣医にして、みずからの居住するマンションでは「ペット飼い主の会」を結成し共生を勝ち取った著者が、懇切丁寧に語ります。
いやほんと、丁寧。
動物が問題なのではなく、人間関係が問題なのだ、とはっきり言っています。もっともそういうことがわからない人は、こういう本は読まないでしょうけどね。
しかし、犬のふんを片づけないことに腹を立てて毒入りラーメンを置いておく老人にも腹が立つが、ふんを片づけないバカにも腹が立つ。もうちょっと脳をつかって動物を飼ったらどうだ。っつうか、そういうバカに犬を飼う資格なし。
吠え癖がなおらない犬も、ぎゃーぎゃー騒ぐ幼児も、歩道いっぱいになって歩く高校生も、がはがは笑うおばさんも、酔ってゲロはくおっさんも、みんな同じ。迷惑かけちゃいかんでしょう。自分が迷惑になってるかどうかを気にしないようになったら、おしまいだと思う。社会というものの最低限の約束事はそこじゃないかなあ。
で、ペット可マンションで犬を飼っているわたくしですが、今のところ目立ったトラブルはない、みたい。しかしこれも嫌いな人がどう思っているか、わからんしなあ。気をつけようと思いました。すくなくとも外で物は食べさせないぞ。って、そういうことじゃないってば。(2001.5.27 黒鼻)
★★★
新潮社/新潮文庫 629円 [Amazon]
かわいくて、りりしくて、たのもしいニッポンの犬たちのフォト&エッセイ。富士山と桜を背負った柴犬の表紙写真すばらしい。収録犬は柴犬、紀州犬、川上犬、甲斐犬、四国犬、北海道犬、秋田犬など。文庫になってうれしいワン。(2003.6.6 白耳)
★★★★
株式会社東京糸井重里事務所 ほぼ日刊イトイ新聞/ほぼ日ブックス 1695円 [Amazon]
2004.12.3初版。ジャック・ラッセル・テリアのルーシーと仔犬たちの写真集。といっても著者は写真家ではなく、ふつうの人(CM制作会社のマネージメントをしてる人)。ふつうの飼い主が、ひたすらたくさん犬の写真を撮って、それに文章をつけて一冊の本にした、というだけのことなんですが……これが、いい。(詳しい説明はこちらで)
ウェブサイト《ほぼ日刊イトイ新聞》に連載されていたコンテンツをまとめたもので、じっさいに多くの写真はまだ《ほぼ日》で見ることもできますが、しかし本の形で読むとまた別の味わいがあります。
発売前の先行予約販売、というのをやっていたんですが、“本は現物を見てから”という方針の私も思わず注文してしまいました。特典のシールとか限定帯とか、うまいよな(笑)。
さて、内容。
生まれてすぐの、おっぱいを飲むことしかできないような赤ん坊犬が、よちよち歩くようになり、きょうだい犬たちと遊んだりケンカしたり、でもすぐに疲れてぐうぐう寝てしまったり、そういうワンシーンごとがなんとも微笑ましく、愛らしい。こういう写真は24時間いっしょにいる人じゃないと撮れないよね。
仔犬たちは、あたらしい飼い主さんにもらわれていくわけですが(そのうちの一軒が、糸井重里・樋口可南子夫妻。それがきっかけでこの写真集がうまれるわけです)、けっして悲しいことじゃないのになぜか泣けてくる。仔犬ってやつは、まったく……。
380ページ、この手の本にしては分厚く、読むところもたくさんあるけれど、ゆっくりじっくり楽しむのが吉かと思われます。(2004.11.26 黒鼻)
★★★★☆
いいことがあった日、ろくでもなかった日、なんでもない日、どのページでも開いてください。なんだかとにかくうれしくなります――と帯にある。わかりきったことを、とため息まじりにつぶやく人は、いま犬と暮らしている人か、これまでに一度でも犬と付き合ったことのある人だろう。
ジャックラッセル・テリアのルーシーと、その子犬たちの約1年間の物語である。
犬の妊娠・出産、そして子犬の成長の記録と言い換えれば、本や雑誌はいうに及ばず、ネット上にそれこそゴマンとあるわけだが、本書の場合、まず写真の枚数に圧倒される。ページ数から考えても400枚以上になるだろう。さすが1万枚(!)から選んだだけのことはあり、どれもいい写真である。デザイナーの手が入っているとはいえ、こういう写真は飼い主さんにしか撮れない。犬たちを見つめるもうひとつの眼差しが感じられる。(2004.11.26 白耳)
★★★★☆
角川書店 1200円 [Amazon]
……すげえ。
むろん「フィクションです」という断わり書きはあるんだけど、しかし読むほうは、実際そうだったんだろうなあ、と思いますわな。前夫(と長男の担任の先生もだな)としては痛恨だろうなあ。そこがまたおかしいんだけど。
相手が反論できないのにずるい、という見方もできるし、やったもん勝ちともいえる。えげつないといえばえげつない。いわゆる“文学”“私小説”にまで昇華されているかというと、むずかしい。生々しすぎることは別にしても、もうちょっと“自分を嗤う”面があってもいいんじゃないかと思うのだ。そんなつまらん男となぜ十四年だか十五年だかも一緒にいたのかとか突き詰めれば、結局自分の男を見る目がないということだしね。
しかしまあすごいということは確か。ともだちにはなりたくねえ(笑)。(2001.5.9 黒鼻)
★★★
「本の旅人」連載を単行本化とあるけど、またこの話? という気分がぬぐい去れない。いったい何のために、これほどまでに実体験を語り続けるのか。そしていつ終わるのか。折りも折、自堕落な前夫のせいで230万のコピー機の買い取りを迫られるという話を「通販生活」の漫画で読んだばかりだった。別れた男が未曾有のあんぽんたんだったということには心から同情するが、相手に反論の余地及び場がないのなら、いっそ黙ってるほうが恰好いいんじゃないのか。この人、黙っててもじゅうぶん恰好いいと思うのだが。内田春菊の出産と結婚と出産と妊娠と離婚と結婚と出産と、3人の子供のことが詳しく知りたい人向き。(2001.5.29 白耳)
★☆
文藝春秋/文春新書 660円 [Amazon]
新書で泣けるとは希な体験。著者自身も猫の飼い主だが、もちろん、そういう書き方がされているわけではない。あらゆる事実を簡潔に列挙し、冷静に分析し、歴史をたどり、現状に至るという、ばりばりの新書スタイルだ。だが、読み進んでいくうちに、不遇な犬や猫、また“ペット・ロス”の実例に、どうしてもじぶんとじぶんの飼い犬を重ねてしまう。このままでは、本書の中にある「ペット・ロスに陥りやすい人」まっしぐらである。ああ、目の前で飼い犬がだらしなくも仰向けになって寝ている。かわいい……。(2000.1.21 白耳)
★★★★
講談社 1000円 [Amazon]
犬本。解説不要。問答無用。犬好き落涙必至。クリスマスプレゼント向き。(2000.11.17 白耳)
★★★☆
2000.11.1初版。『つめたいよるに』所収の短編を絵本化。
10分で読めてしまうけれど、最後もきっちりわかっちゃうんだけれど、犬好き動物好きにはたまらないお話。キスは、ねえ……泣けるねえ……。
不満があるとすれば……プーリーだって書いてるんだから、ちゃんとそれっぽい犬を描いてくれよお、ってことでしょうか。(2000.11.26 黒鼻)
★★★☆
大和書房 1200円 [Amazon]
大和書房ホームページ連載(2001.3〜2003.8)に加筆+書き下ろし。ふしぎなタイトルだが、「雨」というのは著者の飼い犬の名。その雨といっしょに聴いた音楽にまつわるエッセイ集。
「かつて私は、しばしば音楽にたすけられました。いまは雨にたすけられています」
この帯の文句にぐっとくてしまうあなたは、きっと愛犬家。(2004.3.30 白耳)
★★★★
▽雨はコッカースパニエル(文・写真とも連載開始当時)
http://www.daiwashobo.co.jp/topics/ekuni-topics.htm
河出書房新社/河出文庫 540円 [Amazon]
『妻と私』江藤淳夫妻が、二十四年間ともに暮らした三匹の犬にまつわるエッセイ集。夫人による装画、口絵、本文カット付き。「犬」とつくとつい手に取ってしまうが、こういうのはなんだかなあ。本文も寄せ集めふうで、重複する部分もあり途中で飽きる。犬は三匹ともコッカー・スパニエルです。(1999.12.6 白耳)
★☆
白泉社/JETS COMICS 648円 [Amazon]
2005.6.1初版、2005.7.20第二刷。初出「ヤングアニマル増刊嵐」ほか。
犬漫画は数々あれど、これはめずらしいボーダーコリー漫画。我が家のテスと比べて、似ていたり似ていなかったり。キャベツの水煮は食べる、寝言はいう、ため息もつく、乗り物酔いはする。でもテスは拾い食いはしない、そもそもあんまり食い意地張ってない(おやつは欲しがるけど)、他の犬に(最近はあんまり)挑みかからない(歳とったからかなあ)。
ボーダーを飼ってる人には楽しめる一冊かと思います。(2005.7.24 黒鼻)
★★★
「運命の一頭」との出会いにより、それまでの日常が崩壊したある漫画家のワンだフル=犬でいっぱいライフをつづったエッセイコミック。全21話+描きおろしなど。
『スイートホーム』とか『ヘヴン』などを描いた人気作家さんらしいですけど、買ったのは本書が初。だって、「運命の一頭」がボーダーコリーなんだもん!
犬を飼っていたことがあるとはいえ、このやっかいな犬種を、なんの予備知識もないまま衝動買いしているところがすごい。どんなことになったかは火を見るより明らか。いちいち深々とうなづきながら読みましたよ、ええ。
犬の名はナナ。絵は荒っぽいが、写真も出ている。ショータイプっぽくてかわいいです。(2005.9.2 白耳)
★★★★☆
双葉社/双葉文庫 695円 [Amazon]
2002.10.20初版。単行本は99年10月刊。
なんとも説明がしづらいのだが、いわゆるハードボイルド小説を期待するととんでもないことになるので、それだけは明記しておかなくてはなるまい。なんというか……ユーモア・ハードボイルドですかな。
フィリップ・マーロウにあこがれる私立探偵が、ひょんなことから雇うことになった秘書の片桐綾とともに、殺人事件の犯人を追う――。
などというとごくまっとうなハードボイルド・プライベートアイ小説のようだが、そうは問屋が卸さない。
実は探偵の仕事は×××××であり、片桐綾は×××で、犯人は×なのである。伏せ字多すぎますか。べつに明らかにしても問題ないような気もするけど。立ち読みすればすぐわかるし。まあいいか。
てなわけでハードでボイルドなユーモア物です。なんじゃそりゃ。
笑いというのはじつに、ねえ。お客さんを泣かせるのは簡単だが、笑わせるのは難しい、というのは洋の東西を問わず、映画でも演劇でも言われていることですが、小説もまた同じ。
この作品についていえば、笑いについては、まだまだきびしい。狙っているところはわかるんだけど、文字で読ませて思わず噴き出させるというのはちょっとやそっとじゃできないってことです。
いっぽう、泣かせは充分。油断させといて、最後にじわっときました。ちょっとくやしい(笑)。
最近なにかと話題の著者は56年生まれ。『オロロ畑でつかまえて』で第10回小説すばる新人賞を受賞してデビュー。この『オロロ〜』は倒産間近な広告代理店が、過疎の村をCIするというとんでもない話でありまして、つまり著者は根っからユーモアの人なんですが(近ごろはシリアスなものも手がけている様子)、精進していただきたい、とかように思うわけです。(2002.11.21 黒鼻)
★★★☆
集英社/集英社文庫 590円 [Amazon]
2002年7月刊の『石ノ目』改題。タイトルに「犬」がつくとなんでも買っちゃう人は早まらないように。
天才・乙一の新世代ファンタジーホラー作品集。肌に棲む犬と少女の不思議な共同生活を描く表題作「平面いぬ。」ほか、その目を見た者を石に変えてしまうという魔物の伝承をめぐる怪奇譚「石ノ目」など4編。
4編ともとっかかりはどこかで聞いたような話だが、そこからの展開が巧みで味わい深い作品に仕上がっている。とくにアンデルセンの「鉛の兵隊」を彷彿とさせる「BLUE」が印象に残った。この痛々しい愛らしさ、ただ者ではない。590円はお買い得。
ところで集英社の「Web 乙一」に「若い頃に書いた恥ずかしい作品が収録されています」とあるが、「若い頃」とは大学3年のときのことらしい。25歳の人にそんなこといわれてもなあ。あはは。将来期待。(2003.7.8 白耳)
★★★★☆
▽期間限定「Web 乙一」
http://www.shueisha.co.jp/otsuichi/
幻冬舎 1600円 [Amazon]
2004.6.30初版。初出は2000年の『カポネ・カポネち』(「ラ・コミック」増刊号(笠倉出版社)――雑誌掲載は90年から)。著者は66年生まれ。
埼玉の団地に住む女子高生(肥満体)と家族がブルドッグの“カポネ”を迎えて過ごす日々。いかにも昔ふうな漫画、昔ふうな雰囲気(漫画研究会とかね)で、さほどうまいとは思えないのだが、犬を飼っている人間ならではの観察がおもしろい。階段、自分じゃ降りられないのがかわいい。
犬飼いの人にだけお勧め(笑)。(2004.7.31 黒鼻)
★★☆
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