犬本―【国内/か】―その1

不屈の犬

笠原靖

光文社/光文社文庫 533円 [Amazon]

 2001.12.20初版。親本は1993.6講談社刊。著者は織田作之助賞を受賞してデビューしたとのことだが、はじめて知りました。年齢もなにも書いてません。たぶんけっこう爺さんだと思う。
 で……。ううむ、どう説明すればいいのか。カバー表4より引用。

沢雅人の盟友ともいうべき犬リキがヤクザに連れ去られた! 沢は空手を武器に奴らを倒し、闘犬として売られた事実を知るが……すでに勇猛なリキは厳寒の東北路へと逃走していた。
やがて舞台は日本を離れアフリカへ――。壮大な冒険ロマン!
 いやこれだけ読めばなんか感動の動物本という感じなんですがね(そ、そうか?)。見事にだまされました。すごいです。すっげえです。壮大な冒険ロマン、それ以外のなにものでもありません。
 読む人いないと思うので一通り書いちゃいますが(念のために見えなくしておきますが、読まないって人はドラッグして反転させてどうぞ)、主人公強いです。空手が超強いです。隣の家にきたヤクザ二三人やっつけちゃいます。で、盗まれた犬を取り戻しに走ります。そもそもその犬を飼うことになったきっかけというのもすごくて、チンピラにからまれて困っていた女子大生を助けたからなんですよ。その女子大生は今やテレビ局の美人アナウンサーなんです。でもふたりは清い関係。犬を助け出しに行ったら、もう逃げ出したあとでした。犬はひとりで東京を目指します。野犬だのなんだのと戦って勝ちます。犬も超強いです。でもいよいよ絶体絶命のピンチというところでは、たまたま通りがかった親切な人に救われます。しかも元獣医だしな。ガキも出てきますが、異様な言葉遣いです。「すばらしい落日だった」(p221)とか言います。小学生なのに。助けられてめでたしめでたしとはいきません。そうです、“舞台は日本を離れアフリカへ”なのです。無茶や。
 と、まあこんな具合です。どっちかというと「ト」(トンデモ本)です。あとがきによると、著者はアフリカが好きで、犬が好きで、空手が好きなんだそうです。すごいや。そのまんまじゃねえか。
 笑えます。勧めないが。(2002.2.24 黒鼻)

∴(保留)


愛犬王 平岩米吉伝

片野ゆか

小学館 1600円 [Amazon]

 第12回小学館ノンフィクション大賞受賞作。動物行動学の先駆者、平岩米吉の情熱あふれる生涯を描く。
 こんな人物がいたとは知らなかった! 学者や文人など著名人との交流も深く、雑誌「動物文学」を創刊、犬や犬周辺に関する著書多数、昭和9年には「フィラリア研究会」を設立している。これほどの活動実績がありながら、知る人ぞ知る存在だったとは。
 愛犬王というタイトルはだてじゃない。研究のためということもあったのだろうが、犬だけではなく、なんと狼やジャッカルやハイエナ、狐、狸にくわえ猫科の朝鮮山猫やジャコウネコまで自宅で飼って、それこそしぬほど可愛がっている。どれくらい可愛がっていたかは、家の様子からも知れる。

狼の行動範囲はどんどん広くなり、犬と同じように庭から廊下や座敷、書斎などへも自由に行き来し、時には階段から二階に上がり(中略)そのために板の間は傷だらけ、畳の目はすべてなくなり、障子は破れ放題だったが、そんなことを気にする者はすでに平岩家にはいなかった。(p.64)
 しかし、どうやらこの「奇人先生」は、動物たちの食事の世話や寝床の掃除などの雑用は奥さんに任せっきりだったようです。それでも米吉の動物たち、とりわけ犬にそそぐ愛情は深く、犬たちもその思いに全身全霊でこたえている。彼が生涯を通じてもっとも愛したおすのシェパードを失い、悲しみに打ちひしがれる様子は涙なくしては読めない。
 著者は1966年生まれのフリーライター。やはり犬好きで、仕事でも人と犬の生活をテーマとしたものをお書きになっているようだが、平岩米吉を知ったのは書店のペット関連コーナーで、その著書に感銘を受けたのが本書執筆のきっかけ。「犬研究者のなかでもっとも尊敬する人物」と明言するだけあり、平岩米吉という人物と著書を少しでも多くの人に知ってほしいという熱い思いが伝わってくる。賞をとるだけのことはある。とくに愛犬家におすすめ。(2006.4.6 白耳)

★★★★★


犬のことば辞典

きたやまようこポチ監修)

理論社 1290円 [Amazon]

 これは、説明より引用だ(笑)。

【あとで】じかんのひとつ。大人は“しばらくしたら”の意味。子どもと犬には“ダメ”という意味。
【しり】しっぽのあたり。子どもは“だす”が、おとなは“かくす”。犬は“かぐ”。
【わけ】=理由。子どもは“よくわからない”が、大人は“いいたがる”。犬は“なかなかいってもらえない”。
 以上のような「ことば」118語収載。なごみます。(白耳)

★★★


きたやまようこ

新潮社/新潮文庫 362円 [Amazon]

 まずはなをくっつけ、それからお尻の匂いを嗅ぐ――これが正式な犬のあいさつ。犬はなかなか家族を選べないけど、選ばれたらそれを誇りに思って、家族を愛そう。呼ばれたら顔を向けるきくばりも忘れないで。
 いちど犬になってみたいと思っている人や、もう犬になっちゃった人のために、ポチが教えてくれる、ちゃんとした犬になるための絵本教科書。
 ちゃんとした人間になるための教えでもある。たとえば「もちもの」の項。「なるべく ものは もたないこと。いつも みがるで いること」とある。「ろうけん」は「としとった 犬が りっぱな犬とは かぎらないが りっぱな犬も かならず としを とる」と説明されている。犬に学ぶことはたくさんあるということですね。お買い得。(2002.12.10 白耳)

★★★

▽きたやまようこのサイト
 http://www.kitayama-yoko.com/top.html


熊谷達也

集英社 1600円 [Amazon]

 新田次郎の作品を読んでいるようだと思ったら新田次郎賞受賞者だった。
『漂泊の牙』で第19回新田次郎文学賞を受賞した著者の小説集。初出「小説すばる」ほか。全9話。荒ぶる自然への畏れと挑戦。山背が吹きつける東北の地で自然を生業とする男たちの物語。
 男たちの生業は、潜水夫、マタギ、漁師、鉄砲撃ちなど。映画にするならぜひ高倉健でお願いしたい。自然や生き物を相手にする仕事とは、「待つ」ことだということが身に染みてわかる。そして些細なミスが死に繋がる。圧倒的「男の世界」である。父性の喪失が叫ばれて久しいが、改めて確認したい向きは本書を読むといいだろう。北上川で水運を営む老夫婦の危機を描く「■船」(ひらたぶね/■=舟+帶)、山神の化身と畏れられる熊を追う熊撃ち名人の「皆白」いい。
 さて、そんな自然のダイナミズムには欠けますが、犬話入ってます。少年と飼い犬の出会いと別れを描いた「メリイ」、貧農の次男が出くわした不思議な山犬の「御犬殿」。双方甲乙つけ難いが、やはり少年と犬を描いた「メリイ」だろう。主人公はある日、亡父のカメラの中に残された古いフィルムを現像する。写っていたのは少年時代のじぶんと愛犬メリイ。メリイは犬嫌いだった主人公が、山で炭焼きをする祖父から譲り受けた犬だった。落涙必至。おすすめ。(2002.11.17 白耳)

★★★★☆


アヤコ・グレーフェ

講談社 1600円 [Amazon]

 著者は在独日本人。タイトルはかたいが、グレーフェ家で暮らす犬「ボニー」が語る、ドイツ人家族の生活と犬の話という内容。著者個人及びグレーフェ家関係者には面白いかも知れない。あと、ドイツで犬を飼いたいと思っている人とか。こういうのって、あまり親しくない人に、遠い親戚の話を聞かされているような気分になるなあ。ぶう。(白耳)

★☆


ドイツの犬はなぜ幸せか 犬の権利、人の義務

グレーフェ〓子

中央公論新社/中公文庫 648円 [Amazon]

 2000.8.25初版。著者名は「グレーフェ・あやこ」と読む。「あや」は「或」という字の斜めの線(右上から左下への)が3本あるという珍しい字。親本は上で白耳が紹介している、『犬の権利、人の義務』というタイトルで講談社から1996年10月に刊行されたもので、それを改題、加筆訂正したとのこと。著者は言語学系のひとで、69年にドイツ人と結婚、渡独。ミュンヘン在住だそうです。
 いわゆる《異文化系犬本》(いや、そんなジャンルはないが、いま作ってみました)。海外での動物との関わり合いかた、しつけの仕方などを、飼い犬ボニー(シェバードとコリーのミックス)の視点でつづられています。そう書いただけで引いてしまう人、多いだろうなあ。そうでもないかな。わたしゃちょっと引きました。
 ドイツでの人間と犬の関係をそのまま書いてくれるだけで、犬好き/動物好き読者には充分だと思うんだけど(犬嫌いが読むわけないし)なあ。
 お犬さまが自分の生活態度などつらつら述べられて、飼い主(男性はヘルヘン、女性はフラウヘン)のことなど描写しているというスタイルなのですが、これ、考えるほど簡単ではないですよ、人に読ませるレベルでやるのは。ペット雑誌の投稿写真や投稿コラム、ウェブサイトなどにも“わたしはボーダーコリーのテス(仮名)、よろしくね!”などという、痛々しい文章がよくありますけど、相当の書き手でないとちょっとつらい。素人が趣味でやるならいいけど、単行本・文庫本にして金を取ろうってんですから、もうちょっと文章力つけてほしい気がします。文章のせいで読むのに骨が折れました。
 内容は、悪くないんです。犬との関係が連綿と続いている欧米諸国がうらやましい。犬と電車に乗ってどこかにいったり、レストランで食事したり、すごくうらやましい。ようするに「しつけ」の問題なのですが、日本では五十世紀になってもダメでしょうな。自分の子供すら満足にしつけられない人間が多いし。かくして日本の犬は永遠にひもにつながれたままなのでありました。(2000.10.27 黒鼻)

★★


木暮規夫・総合監修

主婦と生活社 1456円 [Amazon]

「最新」と印刷してある本はいつまでたっても「最新」なので注意したい。本書は1995年刊。
「犬のからだのしくみ」詳細な図解がされているところがいい。耳掃除ひとつにしても、知ってるのと知らないでは大違いである。次に、飼い主が日常の観察で判断する「ホームクリニック」、そして部位別病名などを列挙した「メディカルクリニック」、「交配とお産」、「家庭での応急処置」という構成。巻末に病名さくいんがあり、いざというときに素早く閲覧することができる。解説文も簡潔でわかりやすい。おすすめ。(白耳)

★★★★


ごしまれいこ

いれぶん出版発売/Kプロダクション発行 1500円

 サブタイトル「犬そだてにちょっぴりつかれたパパとママへ」。

この本のタイトルにも使った「犬そだて」という言葉。私は「いぬそだて」ではなく「こそだて」と読んで欲しいと思っています。あなたが犬と一緒に暮らし、そしてあなたがその犬を育てていくのなら、それはまぎれもなく「子育て」です。(p.1)
 著者は訓練士。1998年4月1日初版第一刷発行とけっこう新しい本だが、どうやって手に入れたのか、さっぱり忘れてしまった。自費出版ふうの地味な装幀及び内容ではあるが、非常に具体的でわかりやすい。飼い始め関係者向き。
(しかし書店で入手可なんだろうか?  http://member.nifty.ne.jp/KOSODATE/がホームページだそうです)(白耳)

★★★


児玉小枝

桜桃書房 1500円 [Amazon]

 家族の献身的な介護、天寿を全うしようとする老犬たち――交わすことばは「ありがとう」。写真と文章で綴る感動の記録。話題の本。
 表紙はベビーカーに乗せられた老ビーグルの写真。こういう光景はいまや珍しくない。動物が好きではなかったり、飼ったことのない人の目には、滑稽にうつることもあるだろう。近所に後肢が不自由で、特注の車椅子をつけた犬がいる。ほとんど動けなくなったウエスティを抱っこして散歩させている女性がいる。いつも自転車のカゴに老いさらばえたベドリントン・テリアを乗せている人がいる。
 道行く人の多くはすぐに目を逸らしたり、そうでなければあからさまな好奇の視線を向ける。だが、同じように犬を飼うわたしは、飼い主と犬の間に流れる、静かで穏やかな時間を感じることができる。
 不自由な生活に前向きに取り組む飼い主と犬の写真は雄弁に語る。巻末「痴呆犬の介護ポイント」「寝たきり犬の介護ポイント」いい。親切。(2002.8.24 白耳)

★★★☆

▽著者のページ
 http://www1.u-netsurf.ne.jp/~s-kodama/





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