犬本―【国内/さ】―その1

コマのおかあさん

鷺沢萠

講談社 1400円 [Amazon]

『ドッグ・ワールド』連載の愛犬エッセイ。
 いまとなっては無意味なことだが、わたしは計画的に「犬を購った」ので、“偶然”とか“運命の出会い”に、ちょっとばかり憧れがある。著者は新聞のインタビュー記事がきっかけでコマと出会った。
 なんとも不思議な語り口だが、共感するところが多く、楽しく読める。(白耳)

★★★☆


私の犬まで愛してほしい

佐藤正午

集英社/集英社文庫 400円 [Amazon]

 犬はタイトルだけ(笑)。佐藤正午の初エッセイ集。1984年から1989年まで、約5年分の「ぼく」が綴られている。文末に「こういう事実はなかった」的ネタばらし、また短い後日談が追記されているのがなんともおかしい。佐藤正午ファンならぜひ。(白耳)

★★★


 お気に入り佐藤正午の文庫オリジナルの初エッセイ集。刊行はずいぶん前ですが。俺的には、もうタイトル勝ち。すばる文学賞受賞当時のエッセイとか、まあようするに佐藤正午の初期エッセイの集大成なんだけど、でもまあ今でもあんまりかわってないや。新人のころから嘘エッセイ書きまくりで、そういう意味では小説家としての素質充分だあね。(1999.3.23 黒鼻)

★★★


島村洋子

新潮社/新潮文庫 400円 [Amazon]

 コバルト系作家のエッセイ本。表紙・和田誠。タイトルいい。いやしかし、この内容は難しい。難解というのではない。平和なイメージのタイトル及び表紙のイラスト、帯の惹句、また裏表紙のリードの内容に反して、犬の生き死にについての記述が多いのである。
 著者は姉がトリマーでペットショップを経営しており、繁殖も手がけているという環境で、中学生のころからたくさんの犬と付き合っている。歴々の飼い犬の死や、阪神大震災ではペットショップの犬たちの事故死に立ち会っている。だからこそ書くということもあるのだろうが、本書を手に取る、おそらくは犬の飼い主たちが、このような内容を想定してレジに向かうとは思えない。生き物と暮らす人の多くは最初から覚悟はできているだろう。あえて他人の体験に学ぶ必要などないとわたしは思う。(2002.12.10 白耳)


白澤実

徳間書店/徳間文庫 514円 [Amazon]

 2001.1.15初版。96年11月にサンマーク出版から出た『ペット探偵のゆううつ』の文庫化。
 著者は現役の“ペット探偵”。49年東京生まれで、麻布獣医大学(現麻布大)を中退、その後、ホテルマンやらなにやら職を転々として、(おそらく単行本刊行の)15年前からペット捜し専門の探偵屋さんを開業、現在にいたる、らしい。
 いかにも素人で、文章も下手だし語彙も貧困、黒澤という架空の分身を出して語らせたり、なんだかこの手の本に共通するダサさがきびしいものがあるんですが。
 でもまあ誠実さがわかるので、許してやるかというところ。ペット業界――悪質なブリーダーや獣医、どうしようもない飼い主ら――全般に対する批判的な眼もちゃんと備わっているし。
しかしドクター野村もそうだけど、この手の本を書く人って、どうしてこう鬱陶しい暑苦しさを(文章に)そなえているんだろうか。もっとクールに書いても充分伝わるだろうに。(2001.1.24 黒鼻)

★★☆