犬本―【国内/な】―その1

車イスに乗ったチロ

中西章男

集英社 1500円 [Amazon]

 著者は「阿佐ヶ谷ペットクリニック」院長。
 動物を飼う上で避けることのできない「病気」と「死」に直面した飼い主と獣医師の心の葛藤を、著者がこれまでに経験したエピソードを通して読者に問いかける。
 この手の本は数あるが、内容がシンプルでわかりやすい。章ごとの用語解説も丁寧。意図的かどうかは不明だが、自分語り的な部分が少なく、好感が持てる。
 巻末の「私を獣医にした犬」いい。著者の人柄がしのばれる。(2002.8.24 白耳)

★★★☆

▽阿佐ヶ谷ペットクリニック
 http://member.nifty.ne.jp/KOO/


ハッピー! (1〜20)〈以下続刊〉

波間信子

講談社/KCビーラブ 379〜400円 [Amazon]

 テレビドラマ原作。盲導犬ハッピー物語。事故で視力を失った香織を立ち直らせてくれたのは、物言わぬパートナー、ハッピーだった。
絵柄は古いけど確かな技術。「BE LOVE」連載中から涙涙でした。テレビのほうも、ちとくさかろうが、タレント犬がぼんやりしていようが、部屋にペディグリーチャムのフードが並べてあろうが(笑)、泣きました。少しでも盲導犬同伴に対する偏見がなくなればいいなあと思います。(白耳)

★★★★


 1巻につき1回は泣けるのである。子供ネタになってしまってからは、やや低調か。それにしてもテレビドラマのほうはすげえ展開で思わず脱力。(黒鼻)

★★★☆


ハラスのいた日々 〈増補版〉

中野孝次

文藝春秋/文春文庫 400円 [Amazon]

 愛犬家必読の書。読むたびに泣けます。とくにハラス失踪の顛末には涙滂沱でございます。(1999.7.9 白耳)

[評価番外]


 1990.4.10初版。映画かテレビにもなり、話題になった記憶はあるのだが、あまのじゃくな私はどうも手を出せずにいた。が、白耳が、何度読んでも泣く、というので読んでみた。短いからすぐ読める。
 ……泣ける。
 神保町界隈で著者を見かけたことがある(当時明大で教えていたんだと思う。酒場で「あれが――」と先輩に小声で教えてもらっただけだが)。むろん「ハラス」は未読だったし、名前を聞いてもどういう人だか知りゃしない。今だったらサインのひとつももらってたかもしれん。
 ドイツ文学者であり作家の著者のところに、柴犬ハラスが来て、そして年老いて死ぬまでの話。雪山失踪のところとハラスの死と、一冊で二度泣けるのは保証する。
 うちの娘はまだ若いからいいが、それにしたって人間のほうが長生き(たぶん)。これが死んでしまったら、わたし(と白耳)はどうしたらいいのか……。しみじみしながらベッドど真ん中でヘソ天になって寝ているTをながめた。(1999.7.13 黒鼻)

★★★★


中野孝次

岩波書店 1900円 [Amazon]

『ハラスのいた日々』から12年後の犬本。著者は生涯三頭目の犬(豆柴)を飼っている。帯に“老人と犬”とあるように、犬を飼っている高齢者の視点から、現代の犬事情、また老人問題に言及した内容となっている。後半は、なんとかの繰り言的な雰囲気があってしばしば腹も立つが、犬の飼い主として共感できるところが随所にあり、楽しく読めた。(1999.3.16 白耳)

★★☆


犬のいる暮らし 〈増補版〉

中野孝次

文藝春秋/文春文庫 667円 [Amazon]

 2002.1.10初版。『ハラスのいた日々』の続篇。単行本は、1999年3月に岩波書店、2001年9月に文藝春秋から刊行。上で白耳が紹介している本と同じじゃないかというなかれ。同じなんだけど。でも元の単行本に、その後発表されたエッセイ三篇を加えて、決定版となったのが、これなのです。ちょっとお得。
 ハラス亡き後、当然のことながらペットロスに陥った著者が、その後ふたたび柴犬を飼うにいたる、心の動き、二代目三代目四代目の柴犬たちの個性の違い、などなど興味深いコメントが多い。
 いわゆる「老人の繰り言」的な部分はすこし鼻についたりもするが、犬と人間との関わり方、あるべき姿など、うなずける点も多々あり、満足できる。

一度深く犬を愛し、犬を十数年も伴侶として暮したことのある者は、自分はもう犬を飼っていなくても犬への関心を失うことはありえない。目はつねに犬に注がれている。(p.93)
(2002.1.20 黒鼻)

★★★☆


根本寛

WAVE出版 1500円 [Amazon]

 著者は経営コンサルタント、中小企業診断士、また筆跡心理研究家としても活躍中となかなか多才のようだが、購入したマンションに入居後、なんら迷惑行為がなかったにもかかわらず、ペット禁止の規約を制定され、86年から94年まで『横浜ペット裁判』として知られる裁判を闘った本人。裁判の話は思い出すだけで頭に血が上るので省く。タイトルも装幀も地味でいかさないが、これが意外にも当たりであった。犬との生活と裁判のことがバランスよく、簡潔に語られている。マンション飼いのみなさんにおすすめ。著者のいまはなき愛犬ビッキーはイングリッシュ・ビーグル。
 巻末のほうで著者が引いたアメリカの古い裁判の弁論が素晴らしいので、長いがここでも引いておく。

 陪審員諸君、人間がこの世で持つ最良の友も、彼に反し敵となることがありましょう。彼が愛情こめて育て上げた息子や娘も、不孝者となることがありましょう。私どもに最も親しく最も愛すべき者、私どもが自分の幸福と名声を任せるものさえ、その信頼を裏切ることもありましょう。人の持つ富は失うこともありましょう。富は人が最も必要とするときに、人から飛び去ってしまうものです。
 人の名誉は、何か一つ人によく思われない行為があるととたんに犠牲にされます。成功が私どもとともにあるときに膝をかがめて我々を崇める人々も、一旦失敗がその雲を我々の頭上に覆うや、先ず悪意の石を我々に投げる最初の人ともなるでありましょう。
 この利己的な世の中で、人が持ち得る唯一の絶対に非利己的な、決して彼を棄てず、決して恩を忘れたり、裏切ったりせぬ友は犬であります。
 陪審員諸君、人の持つ犬は、富むときも貧に悩むときも、健康のときも病気のときもその主人の味方である。犬は冬の寒風吹き荒び、雪が狂い降るときも、その主人のそば近くおることさえできれば冷たい地面にも寝るのであります。彼は自分にくれる食物を持たない手にも接吻し、世の荒波と闘ってできた傷もなめてくれます。彼は乞食の主人の眠りをあたかも王侯にたいすると同じく番をするのであります。
 他のすべての友が去っても彼だけは残っています。富が飛び去り、名声が粉々になっても彼の愛情はちょうど空を旅する太陽のように不変であります。運命が彼の主人を友もなく、家もなく、世の中に放り出しても、忠実な犬は主人について危険から主人を守り、その敵と闘うより以上の特権を求めないのであります。
 そうして遂にすべてが終わって、死が主人を抱き、その体が冷たい地面に横たわると、他のすべての友はおのおの勝手な方向へ行ってしまっても、その気高い犬は墓のそばにあって頭を前足の間に入れ、眼は悲しげに、しかも敏く見張って大きく開き、死に至るまで忠実で真実であります。(昭和37年発刊 (財)日本動物愛護協会資料より)
(2002.7.9 白耳)

★★★★☆


野村潤一郎

新潮社 950円 [Amazon]

『シンラ』連載「ペットドクター日記」。一生動物と暮らすことができるという理由で獣医を目指し、中野に開業以来、年中無休、睡眠時間3時間のカリスマ獣医師。ずいぶん前に爬虫類やお魚も治しちゃう獣医さんとしてTVに出ておられたが、ついにカリスマですか。真面目くさった説教節のペット本に比べれば格段に面白い。バカ飼い主糾弾、もっとやって下さい。(2000.5.6 白耳)

★★★☆


 2000.4.15初版。「SINRA」連載の獣医エッセイ。
 著者は61年の生まれで、中野で野村獣医科医院をひらいている獣医さんである。そういえば前にテレビで見たことがある顔だ。哺乳類だけでなく爬虫類とかでもなんでも診ちゃう人だ。
 で、彼が出会った、おかしな症例(いや本人、っていうか本患畜にとっては笑い事じゃないんだが)とおかしな飼い主のエピソードをまとめたのが本書。第一部は犬、第二部は猫、第三部はその他、というぐあいに分類されている。なかなかの熱血くんではあるが、文章は素人、ユーモア感覚もちょっとクサい。でも、現場での事例紹介としては簡潔で洞察力もある。全体に好感を持てる本になっている。それにしても、ペットの幸せは飼い主によってしまうんだよなあ、なにがどうあってもね。
 関係ないが、ある作家が自身のホームページ日記上でこの本を紹介したさい、ゴーストライターの腕がよい(文章もうまいしおもしろすぎるので)なんてことを書き、その後、版元から、あれは本人の筆によるものでゴーストは使っていない、と教えられ、恥をかいたのでした。あの文章の未熟さは普通に考えれば素人のものだし(世間のライターの立場がなかろう)、逆にエピソードの活写ぶりは当の本人が書いたことを示しているようなもんだと思うがね。どうにも間抜けだ。(2000.5.9 黒鼻)

★★★


野村潤一郎

メディアファクトリー 1300円 [Amazon]

 Dr.ノムラの“飼育書には書いてない、目から鱗の全100問”。以下、大引用。

「散歩をさせてもらえなかった日、犬はどれくらい残念なのですか?」
 相当残念です。通常、犬は食事より散歩のほうが好きです。食事はどれくらい好きかというと、母犬が赤ちゃんにおっぱいをあげているとき、赤ちゃんをふりほどいて自分の皿に向かうくらい好きです。そのくらい大好きな食事よりも、犬は散歩が好きなのだということを認識して下さい。そもそも犬にとっての散歩は、人間のように「外に出てすがすがしい」という程度のものではありません。散歩は飼い主との共同作業です。世界で一番強くて偉いと認識している自分の親分と、自分の領地をパレードするわけですから、こんな誇らしいことはないわけです。犬と散歩っていうのは、切っても切り離せないものなのです。
「アロマテラピーが趣味ですが、犬にはにおいが強すぎますか?」
 まず、においが強すぎる以前の問題で、犬にとってあの手のにおいは悪臭なんじゃないかと思います。(中略)でも犬がアロマテラピーに使っているあのにおいをかいで心がいやされるかどうかというと、これはおそらくいやされませんね。臭くてもうたまらないんじゃないかと思います。(中略)犬は豚のうんこが腐ったにおいや、ミミズの腐ったにおいを「いいにおい」と感じます。(中略)どうしてもというなら、アロマ犬ピーをやるというのはどうでしょうか。豚のうんこを部屋に置いて、人間が我慢して、犬がうっとりしているのを見て喜ぶわけです。
「学校の校庭で犬が興奮するのはなぜですか?」
 みんなが構うからじゃないですかねえ。
「病院に来た中で史上最低の飼い主はどんな人ですか?」
 本当の意味での史上最低の飼い主は、病院に来ない飼い主なんですよね。(中略)どんな人がむかつくかというと、まず金持ちなのに値切る人。金がない、金がないと言っているのに、マセラティに乗って通ってきてるんです。
「しつけのために犬をぶってもいいですか?」
 これはもう、ぶっていいです。時には体罰も必要です。(中略)まがいものの本には、床をドンとたたいて「ノー」とかいうと書いてあるけど、そんなことをやったら、犬は余計におもしろがっちゃう。(中略)思い切りぶんなぐらないとだめです。じゃないと、どんどんエスカレートしますから。そのような時もやはり現行犯でぶたないとわかりません。(中略)相手が「ヒッ」となるくらい。首をすくめるくらいぶってこりさせて下さい。そうすれば次から体罰は不要になります。(中略)ちゃんとその辺のことをしつけておかないと、走り回るバカ犬の前で一生、床を「ノー」と言いながらたたく、みっともない飼い主になってしまいますね。
 著者の手による挿し絵がいい(表紙・本文とも)。巧みなことにも驚くが、なにより、犬に対する愛がある。(2000.5.29 白耳)

★★★★★+☆


乃南アサ

新潮社/新潮文庫 705円 [Amazon]

 2000.2.1初版。第115回直木賞受賞作の文庫化。親本は96年4月刊。
 直木賞が決まったときは、たしかとっても意外で、ぜったい『蒼穹の昴』だろうと思っていたら大はずれ、がっかりした記憶があります。だからハードカバーでは読むものかと、知らないふりをしておったのですが、文庫化を機に読んでみました。
 んー。まあ、普通、かなあ。
 犬(ウルフドッグ)が出てこなかったら評価はしないかも。それなりの緊迫感や躍動感はあるんだけど、でも物足りない。結局、警察組織内での、一匹狼的女刑事と男社会を代表するベテラン刑事の対比なり相互理解なりといったテーマが押しつけがましく、掘り下げ方も浅いような気がする。(2000.2.23 黒鼻)

★★☆