犬本―【国内/は】―その1

検証アニマルセラピー ペットで心とからだが癒せるか

林良博

講談社/ブルーバックス 800円 [Amazon]

 1999.5.20初版。動物をつかった療法、いわゆるアニマルセラピーについての本。老人ホームに犬や猫つれて遊びに行って喜ばせたり、自閉症の子がイルカと遊んで元気になったり、各種の試みがなされているわけですが、外国での実績と比較しての日本人に適したアニマルセラピーを模索してるんだわさ的な話です。興味深い事例もあったけど、犬猫飼ってるから血圧が低いのなんのというのには疑問符だなあ。犬猫なでると血圧が下がるそうですが、そりゃなでる暇があるってことは血圧もむやみに上がらないのでは。
 警察犬、災害救助犬はもとより、盲導犬も聴導犬も麻薬犬もいれば番犬もいる。馬なんかも長年人間とつきあってきているし、猫もそうだし。だからまあ役に立つのはわかってるし、それはいいことだとは思うけど、ふつうの人間にとっては役に立つ立たないで飼ってるわけじゃないのであって、でもこうして役に立っているのだよという啓蒙をすれば幸せに生きられる動物が増えるのでしょうし、なんとも複雑。(1999.10.3 黒鼻)

★★


動物と人間の世界認識 イリュージョンなしに世界は見えない

日高敏隆

筑摩書房 1600円 [Amazon]

 昔から「犬は人につく、猫は家につく」と言われるが、犬と暮らしていると、どうも犬は「人」というより「群れ」についているような気がする。
 犬(の態度)がもっとも充足して見えるのは、群れの構成員、つまり人間側から言うなら家族全員がそろっているときで、その群れが離散する気配を感じるや、とたんに落ち着きがなくなる。とりわけ、ひとりぼっちでの留守番には敏感だ。おとなしく見送ることもあるが、日によっては遠吠えまでして呼び戻そうとする。コヤツの眼にわたし(及び家族)はどう映っているのだろうと思うことがある――そんな疑問にこたえてくれる本。
 著者は動物行動学者。堅苦しいタイトルにしばらく手が出なかったが、読んでよかった。平易な言葉で語られるとても難しいこと。こんな本、めったにない。(2004.3.29 白耳)

★★★★☆


古川日出男

文藝春秋 1714円 [Amazon]

 2002年に『アラビアの夜の種族』で第55回日本推理作家協会賞と第23回日本SF大賞をダブル受賞した古川日出夫の書き下ろし作品。第133回直木賞候補作。
 1943年5月。アリューシャン列島アッツ島の玉砕を受け、日本軍はキスカ島からの全員撤収の「ケ」号作戦を敢行。島には4頭の軍用犬が置き去りにされる。北海道犬の北、ジャーマンシェパードの正勇、勝、そしてエクスプロージョン。モウ誰モイナクナッタノダ――自分たちは捨てられたという事実を犬たちは理解する。そして米軍が上陸し1頭は死ぬが、3頭は保護される。間もなくエクスプロージョンが出産。彼らを祖とする犬たちはやがて世界中に散らばって行く。
 もうひとつ、並行して語られるのがソ連のスプートニク号5号に乗った2頭、ベルカとストレルカを祖とする犬たちにまつわる物語。この2系統は後に交わることになるが、その頃になるともう、どれがどの子やら。簡単な系譜でもつけてくれないものかと思うが、「ガルシア・マルケスの『百年の孤独』に学んでつけなかった」と〈WEB本の雑誌〉のインタビューで著者自身が語っている。ふむ。
 犬の年代記を通して描く戦争の世紀。こんなアプローチがほかにあっただろうか。天空の高みから語りかけるような文体に多少難渋するが、読み進むにつれ強く引き込まれる。340余ページとは思えないほどの重厚な読後感。この壮大な物語を堪能するためには丁寧に読むことをおすすめする。(2005.10.3 白耳)

★★★★☆

▽文藝春秋公式サイト「自著を語る」  「二十世紀をまるごと書いた」古川日出男