犬本―【国内/ま】―その1

スパイク

松尾由美

光文社 1700円 [Amazon]
光文社/光文社文庫 533円 [Amazon]

『バルーン・タウンの殺人』でハヤカワSF新人賞を受賞した松尾由美の書き下ろし恋愛ミステリ。表紙はなんだかやけに表情に乏しいビーグル犬のイラスト。
 二十九歳の江添緑は、下北沢の街で同じビーグル犬を連れた林幹夫に出会う。二頭は姿形がそっくりで名前も同じ「スパイク」。緑は青年に電話番号とメールアドレスを教え、また会う約束をする。だが、約束の日、幹夫は現れなかった。アパートの部屋で「あの人、どうして来なかったんだろう」と独りごとをいう緑に「まったくだ。どうしてだろうね」と応じたのは、犬のスパイクだった! 人間の言葉を話し始めたスパイクは、緑にある事実を打ち明ける。
 パラレルワールドもの。この人の書くものは、なんというか、とてもかわいい。少女期からの空想癖を引きずっている女友だちの話を、酒も飲まずに延々聞かされているような気分になる。かわいいので、多少の齟齬や誤謬は見逃してやってもいいか、みたいな。そうこうしているうちに力業でねじ伏せられる。つまらないと言っているのではない。ようは好き嫌いの問題。
 パラレルワールドものは内容の硬軟にかかわらず丁寧に読む必要があるため、忙しく、気分がささくれ立っているときなどには向かない。年末年始休暇におすすめ。(2002.12.10 白耳)

★★★★


 2004.11.20文庫化。
《長編恋愛ミステリー》とカバーには書かれている。まあ確かに恋愛っぽくもあるし、謎はあちこちにあるからミステリーでもある。しかしやはりこれはSFであると――とても質のよいSFであると断言したい。
 散歩の途中で、自分の犬と同じ種類の犬を見かけると――内心は自分の犬が一番かわいいと思ってはいても――なんとも嬉しくなる。その犬が、同じ犬種というだけでなく瓜二つのそっくりさんだとしたら……。飼い主同士も同年代の独身男女カレシカノジョなしであれば、話も弾もうというものだ。物語はそんなところから始まる。
 なんとなくお互いに。いいな、と思い、次に会う約束までしてしまう。しかし約束の日時に相手が来ない。それだけなら確かに普通の恋愛小説だ。だが、この小説は思わぬ方向へ進んでいく。
 あとは、読んでのお楽しみだ。ビーグル好きであろうとビーグル嫌いであろうとビーグル普通であろうと(近所のビーグルでいうとPちゃんは吠えかかるのでテスの天敵だが、Eちゃんは人当たり――犬当たりか――がよくて仲良し。ようするに犬種によるのではなくて個犬差や相性なんですね)、犬が好きなら読んでみてほしい。(2005.2.4 黒鼻)

★★★★


a day of Mitchell

MAYA MAXX

小学館 900円 [Amazon]

 MAYA MAXXの犬イラスト本。マヤマックスさんは日本人です。念のため。へろへろした子どもの落書きのような絵。好きか嫌いかは好みの問題。(2002.8.24 白耳)

★★

▽MAYA MAXX
 http://www.mayamaxx.com/

▽なんで MAYA MAXX なのかはこちらで
 http://www.1101.com/denpa2/sobu_index.html


三羽省吾

新潮社 1300円 [Amazon]

 第8回小説新潮長篇新人賞受賞作。
 三流大学の四回生に籍を置くイズミは、一年ほど前に「くだらない事情」で始めた肉体労働がやめられない。その理由は、達成感とか満足感という立派なものではなく、仕事帰りに飲むビールの旨さにあった。
 著者は1968年岡山県生まれのコピーライター。主人公イズミは中堅型枠解体業者「マルショウ解体」で働いているが、著者本人が実際にやっていたとしか思えない。仕事仲間のキャラクターや建設業界の裏事情などなど、取材しただけではこうもリアルに書けまい。「ナニワ饒舌文体」と評される、まるで速射砲のように繰り出される軽妙な文体が、現場の「気分」をよく乗せている。チンピラまがいのゴンタクレ、アル中、シンナー中毒、留学生くずれ、リストラされたおやじなど、ワケあり人間を丸ごと引き受けているマルショウ解体の親方いい。立ち飲み屋の近くのガード下で、赤目を光らせておこぼれを狙うのら犬の“ヨゴレ”も欠かせないキャラクターだ。汗、恋、喧嘩、ツユだく大盛りの青春成長小説。楽しく読んだ。おすすめ。(2003.9.6 白耳)

★★★★


考える犬 (1〜16巻)

守村大

講談社/モーニングKC 485〜486円 [Amazon]

 某一流出版社のフェロモン系雑誌編集長、大門寺文左右衛門は、ある雨の日の夜、電柱の下に捨てられた仔犬を拾う。紋次郎と名づけられた仔犬は、半年で80キロの超大型犬だった。わっはっは。愛妻と愛娘ふたり(後にもうひとり増える)と暮らす敏腕編集長の、家庭内での序列は最下位。というわけで夜の生活もままならず――。
 作者自身がグレート・ピレニーズと暮らすだけあって、超大型犬のスケール感がリアル。作風は相変わらず“熱血”だが、楽しく読める。『愛してる』より面白い。(白耳)

★★★★


 もと不良の辣腕編集長。妻も娘も超美人。現実ばなれしたストーリーですが、でもおかしい。(黒鼻)

★★★★


盛田斌[ダクタリ動物病院院長]

講談社 1500円 [Amazon]

「犬と考える正しい付き合い方」として、犬たちの素朴な疑問に先生が答えるという構成。

:エアデール・テリアのジャックです。ご主人は「もうすぐ6ヶ月になるから、訓練を始めよう」といっています。「訓練」って何でしょうか。どんなことをするんですか? 散歩のときに会う仲間にも聞いてみましたが、「やったことない」とか「食ったことない」と言います。いやならやらなくてもいいんでしょうか?
:訓練といってもいろいろあるんだ。警察犬や麻薬捜査犬の訓練、盲導犬の訓練、災害救助犬の訓練なんかがある、こうした訓練は「学校」に何ヶ月か預けられて受けるんだ。(中略)ご主人が君をリードしてくれて、しかも楽しいから、いやなことなんか何もないよ。これからずっといっしょに暮らすんだから、ご主人がその気なら、ぜひ受けてごらん。 (「Case5  訓練と遊び」p.134より)
 読んでててなんだかむずむずしてくるが、わかりやすくはある。飼い始め関係者向け。(白耳)

★★★☆