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犬と暮らした作家たちの随筆集。1954年に刊行された単行本『犬』を底本に、クラフト・エヴィング商會の創作・デザインを加えて再編集。バセットハウンドに似た「ゆっくり犬」かわいい。随筆の著者は、川端康成、幸田文、志賀直哉、林芙美子、阿部知二、網野菊、伊藤整、徳川夢聲、長谷川如是閑。純血種を飼ふことは、愛犬家心得の一つである。川端家の犬については、伊藤整が「犬と私」の冒頭で触れている。これがおかしい。
純血種は死にやすくて、飼ひにくいといふ。ヂステンパアにも弱いといふ。だから、初心の人は先づ雑種を飼へという。それも一理あるが、麻疹や疫痢がこはいから子供は産まない、賢い子供は体が弱いから阿呆な子供が生まれればいい、そんな風に思ふ親があるだらうか。また高い犬を殺してはと恐れる人もあるが、そんなことをいへば、家財道具だつて、いつ火事で灰になるやらしれず、貯金も株も確かではなく、第一さういふ御当人の命が明日知れない。貰った犬ならば粗末にする、高く買った犬ならば注意する、それで結局同じである。私の経験によれば、犬はさう死ぬものではない。ヂステンパアにかかつた子犬など、私の家にはまだ一頭もいない。(p.85-86)
昭和七年頃、川端康成氏が鎌倉へ引っ越す前、上野にいた頃、その邸宅は犬の吠え声で大変だつた。庭の中には何匹もの犬がいて、私たち外来者があると五色ぐらいの声で吠え立てた。(中略)ケンニンジ垣のかげの中庭で、犬がケンケンケンと声をふりしぼつて鳴き立てると、それはこう言つているようである。「その人間、いまそこに立っているその男の中には、僕の敵がいます。あやしいものが、たしかに、その人間の内側にかくれています。それが、誰も分からないのだ。おれしか、このおれにしか分からないのだ。もどかしい、苛立たしいことだが、おれにしか分からないのだ。そいつを警戒して下さいよ」どうもそう言われるような気がする。そして川端さんが門口へ出て来て、あのマバタキをしない眼で、当たり前より心持ち長く見つめるあの見方で、じつと、私の顔を見ると、私は「もう駄目だ、この世には隠れ場所がない」という気がしたものである。(p.58)巻末に「今日の権利意識に照らして、不適切な語句や表現がある」云々とあるように、なにしろむかしの話だから、とくに犬好きには不快に感じられる部分が多々あるが、そういう時代だったのだ。阿部知二の「赤毛の犬」に出てくるジュジュという名前ののら犬に、わたしは胸が苦しくなるくらいの懐かしさをおぼえる。いつの時代も、犬は人とともにある。(2004.10.3 白耳)
★★★★☆
愛犬を賢く育てる「魔法のクリッカー」 中高年のための犬の飼い方・しつけ方
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アメリカを中心に広まっている「クリッカー」を使った犬のトレーニングを解説した本。と思ったら、犬についての基礎知識、子犬を受け入れる心構えや準備から散歩のさせ方などなど、ほとんど初心者飼い主さん向けの本だった。クリッカーのことをくわしく知りたい人は別の本を探した方がいいだろう。★★☆
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