犬本―【海外/カ】―その1

白い犬とワルツを To Dance With The White Dog

テリー・ケイ

兼武進・訳 新潮社/新潮文庫 514円 [Amazon]

 話題の本。98年に文庫化、初版3万部の本が、発売から三年以上を経過したいま、2か月で15万部も増刷、累計20万部を突破したというからすごい。仕掛け人は津田沼の書店員さんというから、これまたすごい。でも、犬本愛好者としてはもちろん、こうなる前に買い求めたことを付け加えておくぞ。

 長年連れ添った妻に先立たれ、自らも病に侵されたサムは、暖かい子どもたちの思いやりに感謝しながらも、ひとりで余生を生き抜こうとする。妻の死後、どこからともなく現れた白い犬。犬はサム以外の人間の前には姿を現さず、声も立てない。老父の“妄想”に涙を流す子どもたち。しかしやがて――。
 舞台は少しむかしのアメリカ。主人公サムは81歳。7人の子どもに孫28人。皆、老父の看病に交代で通えるくらい近くに住んでいる。男は堅実な職業に就き、女は専業主婦で老父のために母親直伝のビスケットを焼く。意外にも読後感が爽やかなのは、この家族像のシンプルさが大いに関係しているのではないかと思う。

 売り文句というものはいつだって大げさで、この本の帯にも「真実の愛」「痛いほどの感動」とあるが、おせっかいもほどほどにしてもらいたい。淡々と語られる老人の日常生活から、何を読み取ろうが読者の勝手である。ちかごろ人々は「感動感動」と言い過ぎる。(2001.9.10 白耳)

★★★☆


老人と犬 Red

ジャック・ケッチャム Jack Ketchum

金子浩・訳 扶桑社/扶桑社ミステリー 650円 [Amazon]

 メイン州の小さな町で雑貨店を経営するラドロウは、川釣りを楽しんでいる最中に、ショットガンを持った不良少年たちに愛犬レッドを撃ち殺される。長い間苦楽をともにしてきた愛犬の突然の死。ラドロウは然るべき裁きを求め行動を開始する。
 冒頭で頭に血がのぼること請け合い。ケッチャムの、犬や、犬に対する思いの描写は見事である。簡潔にして説得力あり。たんなる復讐譚に終わらない骨太な作品。それにしても“動物愛護暴力小説”とは。(1999.7.4 白耳)

★★★★


 1999.6.30初版。ケッチャムという人の本ははじめて読みました。オビに「動物愛護暴力小説」とあらば読まずばなるまい。しかも、愛犬を殺された爺さんが復讐に立ち上がるって話らしいではないか。
 で、読んだ。薄いからすぐ読める。
 いやあ、これはいい。いい小説だなあ。巻末の解説を読むと、どっちかというとバイオレンス系サイコ系な作家らしいが、そういう感じは全然しなかった。そりゃあ犬を殺されたら、ショットガンでもナイフでもなんでもつかって復讐するってのが人の道でしょう(違うか)。
 主人公のラドロウが、六十何歳という年齢にしては元気すぎる(笑)のがやや気になるけど、そんなことはどうでもよろしい。彼は、ただしい。
 決闘シーンから結末にいたる数十ページは、なかなか痛々しいものがある。本当はそんなに悪い子じゃない二人を殺してしまうなんてと思わないでもない。さらにラドロウに襲いかかる病魔も、過酷すぎるぜ。けれど、しかし最後の最後で救われるものがある。犬は、人を、救う。(1999.7.24 黒鼻)

★★★★


フィリップ&リオネル・コクラン

岡元麻理恵・訳 紀伊國屋書店 1500円 [Amazon]

 フランスで人気のコミック・エッセイ。パリのアパルトマンでお留守番をするイヌとネコのお話。ページ毎に完結するぶつ切りの会話に犬猫らしさを感じる。
 冒頭で飼い主夫婦が出掛けた直後、イヌが恋しさのあまり遠吠えをする。そうするとネコが「やめろ、もう遠くにいっちゃったよ」といさめる。おかしい。いや〜な犬猫本に憤懣を溜めていらっしゃる、全国のうるさい飼い主の皆さん、おすすめです。(1999.6.7 白耳)

★★★★


 犬猫留守番漫画(パリのアパルトマンだから留守番も豪華さね)。犬猫並べてみると、やはり猫のシニカルさに軍配があがるのかしらねえ。犬ってばほんとにおばか。
 ネコがイヌに対して「イヌってのはオナラ芸人だな」。で、イヌは「オナラ芸人ってなに?」となにもわかってない風。こういうのがツボにはまってしまったのは、飼っているからという理由だけなのかなあと自問自答のワタクシです。
 特色の金が効果的な装丁もイカしてます。(1999.6.8 黒鼻)

★★★☆


デキのいい犬、わるい犬 あなたの犬の偏差値は? The Intelligence Of Dogs

スタンレー・コレン Stanley Coren

木村博江・訳 文藝春秋/文春文庫 657円 [Amazon]

 なんだかすごい宣伝してますが、愛犬家は既読でしょうね。おなじみコレン先生が、独自の調査と北米の犬の訓練教競技査員、訓練士208人の意見をもとに、作業・服従知能について133犬種についてランクづけを行ったという、ユニークな内容の本。ランク表によると、1位ボーダー・コリー、2位プードル、3位ジャーマン・シェパード。ボーダーの飼い主としては晴れがましい気分になるが、たいした意味はない。

 訓練されていようがいまいが、やはり自分の犬がいちばんである。(p.257 キャロル・リア・ベンジャミン)
 (2000.9.12 白耳)

★★★


 2000.9.1初版。原著(c)は1994年。
 コレン先生はカナダの心理学教授。なんだけど、犬関係の著作も多数あるという人です。
帯には「あなたの犬のりこう度を徹底的に解明します!」とあり、じっさい犬の知能(問題解決能力や学習記憶能力など)をはかるテストも紹介されていたりするのだが、犬の行動全般についての解説書としての比重のほうが高いようだ。犬を飼っている人であれば「ああ、うちのもこんなことする」とか「うちの犬種はかしこいのだなあ」などと、身近に考えられることが多いだろうけれど、別にそうじゃなくても楽しめる本。
 犬の能力全般や人間との関係・歴史などについて、わかりやすく説明されているし、随所で紹介されるいろいろな犬たちのエピソードもほほえましい。火事にいち早く気づき、飼い主をたたき起こし、逃げ遅れた少女を無事に避難させた老ラブラドールの話など、ちょっと泣かせるし。
 うちの娘は、いちおー一番おりこうさんな種類ということになっていますが、実際は……あたまよすぎるのも考え物ですな。(2000.10.20 黒鼻)

★★★☆


相性のいい犬、わるい犬 失敗しない犬選びのコツ Why We Love The Dog We Do

スタンレー・コレン Stanley Coren

木村博江・訳 文藝春秋/文春文庫 695円 [Amazon]

『デキのいい犬、わるい犬』に続くコレン先生の犬本。コレン先生のご専門は人間の心理学です。念のため。表紙はボストンテリア。「カワイイだけじゃダメかしら?」と言っています。
 友好的、防衛心が強い、穏やかなど、犬をその行動特性によって7つに分類、それに合う飼い主の性格を解説するという内容。有名人の犬にまつわるエピソードなど織り込まれてはいるものの、収録の性格診断テストしなくちゃ先に進めないというカラクリになっており、なんとも七面倒くさい。それでも性格診断テストは、対人特性形容詞尺度(Interpersonal Adjective Scales)を簡略化したもので、それに当てはまる犬のほうは、16歳〜96歳までの6949人の「犬を飼っているか過去に飼ったことがある人」を対象とするアンケートから割り出したというから、たんなる決めつけでもないだろう。
 さて、それによると、わたしは「外向性が低く」「支配性はほどほど」で「信じやすく」「冷たい」人間で、おおむね「穏やかで安定した犬向き」であることがわかった。穏やかで安定した犬に分類されているのは、日本でもポピュラーな犬ならチワワやマルチーズやビーグル。やだ、どうしよう。みんなイヤだよ。占いや性格診断が好きな人向き。鉛筆と電卓のご用意を。(2002.10.22 白耳)

★★★


哲学者になった犬 What Do Dogs Know?

スタンレー・コレン Stanley Coren

木村博江・訳 文藝春秋 1238円 [Amazon]

 コレン先生の『デキのいい犬、わるい犬』に続く第二弾。犬たちの“笑いと涙の秘蔵エピソード”から、彼らが何を考えているのかを探るという内容。犬というより、犬を通じて語られる“人間”にユーモアのセンスが冴える。

87パーセントの人が財布になにかの写真を入れて持ち歩くと報告している。そのうち75パーセントが子供の写真、55パーセントが配偶者の写真だった。そして犬の写真を持ち歩く人は40パーセント――これは姑の写真の二十倍である。(「第三章 水難者を励ました犬」p.53より)
 わっはっは!(白耳)

★★★☆


犬語の話し方 How To Speak Dog

スタンレー・コレン Stanley Coren

木村博江・訳 文藝春秋/文春文庫 705円 [Amazon]

「バウリンガル」というバカなおもちゃが流行している。なにが犬語翻訳機だ。いやしくも犬の飼い主が、じぶんの犬の気持ちがわからなくてどうする。シャレならいくらでも歓迎だが、ちょうちん記事のことごとくがマジな内容。それでまたバカ飼い主が増えると思うと頭が痛い。
 というわけで本書。犬のあくびは疲労や退屈ではなく、ストレスを感じたり相手への和解を求める印。人間の2歳児程度の言語聞き分け能力を持つという犬の吠え声、尻尾の動き、表情などで示される「犬語」を理解して、飼い犬と意志を伝え合おう、という内容。犬対人間というより、犬同士のコミュニケーションについて多く書かれている。説明するまでもないことだが、そもそも犬の相手は犬なのである。犬はそれを対人間に応用しているにすぎないということが、改めてよくわかる本。読みながら、多頭飼いの人がちょっと羨ましくなってしまった。
なお、バウリンガルについての悪口はDog-Ear Press「晴犬雨読/バウリンガル」(2001.11.9)でもお楽しみになれます。(2002.10.22 白耳)

★★★★