犬本―【海外/ノンフィクション】《獣医師・学者、専門職、自費出版系》―その1

デキのいい犬、わるい犬 あなたの犬の偏差値は? The Intelligence Of Dogs

スタンレー・コレン Stanley Coren

木村博江・訳 文藝春秋/文春文庫 657円 [Amazon]

 なんだかすごい宣伝してますが、愛犬家は既読でしょうね。おなじみコレン先生が、独自の調査と北米の犬の訓練教競技査員、訓練士208人の意見をもとに、作業・服従知能について133犬種についてランクづけを行ったという、ユニークな内容の本。ランク表によると、1位ボーダー・コリー、2位プードル、3位ジャーマン・シェパード。ボーダーの飼い主としては晴れがましい気分になるが、たいした意味はない。

 訓練されていようがいまいが、やはり自分の犬がいちばんである。(p.257 キャロル・リア・ベンジャミン)
 (2000.9.12 白耳)

★★★


 2000.9.1初版。原著(c)は1994年。
 コレン先生はカナダの心理学教授。なんだけど、犬関係の著作も多数あるという人です。
帯には「あなたの犬のりこう度を徹底的に解明します!」とあり、じっさい犬の知能(問題解決能力や学習記憶能力など)をはかるテストも紹介されていたりするのだが、犬の行動全般についての解説書としての比重のほうが高いようだ。犬を飼っている人であれば「ああ、うちのもこんなことする」とか「うちの犬種はかしこいのだなあ」などと、身近に考えられることが多いだろうけれど、別にそうじゃなくても楽しめる本。
 犬の能力全般や人間との関係・歴史などについて、わかりやすく説明されているし、随所で紹介されるいろいろな犬たちのエピソードもほほえましい。火事にいち早く気づき、飼い主をたたき起こし、逃げ遅れた少女を無事に避難させた老ラブラドールの話など、ちょっと泣かせるし。
 うちの娘は、いちおー一番おりこうさんな種類ということになっていますが、実際は……あたまよすぎるのも考え物ですな。(2000.10.20 黒鼻)

★★★☆


相性のいい犬、わるい犬 失敗しない犬選びのコツ Why We Love The Dog We Do

スタンレー・コレン Stanley Coren

木村博江・訳 文藝春秋/文春文庫 695円 [Amazon]

『デキのいい犬、わるい犬』に続くコレン先生の犬本。コレン先生のご専門は人間の心理学です。念のため。表紙はボストンテリア。「カワイイだけじゃダメかしら?」と言っています。
 友好的、防衛心が強い、穏やかなど、犬をその行動特性によって7つに分類、それに合う飼い主の性格を解説するという内容。有名人の犬にまつわるエピソードなど織り込まれてはいるものの、収録の性格診断テストしなくちゃ先に進めないというカラクリになっており、なんとも七面倒くさい。それでも性格診断テストは、対人特性形容詞尺度(Interpersonal Adjective Scales)を簡略化したもので、それに当てはまる犬のほうは、16歳〜96歳までの6949人の「犬を飼っているか過去に飼ったことがある人」を対象とするアンケートから割り出したというから、たんなる決めつけでもないだろう。
 さて、それによると、わたしは「外向性が低く」「支配性はほどほど」で「信じやすく」「冷たい」人間で、おおむね「穏やかで安定した犬向き」であることがわかった。穏やかで安定した犬に分類されているのは、日本でもポピュラーな犬ならチワワやマルチーズやビーグル。やだ、どうしよう。みんなイヤだよ。占いや性格診断が好きな人向き。鉛筆と電卓のご用意を。(2002.10.22 白耳)

★★★


哲学者になった犬 What Do Dogs Know?

スタンレー・コレン Stanley Coren

木村博江・訳 文藝春秋 1238円 [Amazon]

 コレン先生の『デキのいい犬、わるい犬』に続く第二弾。犬たちの“笑いと涙の秘蔵エピソード”から、彼らが何を考えているのかを探るという内容。犬というより、犬を通じて語られる“人間”にユーモアのセンスが冴える。

87パーセントの人が財布になにかの写真を入れて持ち歩くと報告している。そのうち75パーセントが子供の写真、55パーセントが配偶者の写真だった。そして犬の写真を持ち歩く人は40パーセント――これは姑の写真の二十倍である。(「第三章 水難者を励ました犬」p.53より)
 わっはっは!(白耳)

★★★☆


犬語の話し方 How To Speak Dog

スタンレー・コレン Stanley Coren

木村博江・訳 文藝春秋/文春文庫 705円 [Amazon]

「バウリンガル」というバカなおもちゃが流行している。なにが犬語翻訳機だ。いやしくも犬の飼い主が、じぶんの犬の気持ちがわからなくてどうする。シャレならいくらでも歓迎だが、ちょうちん記事のことごとくがマジな内容。それでまたバカ飼い主が増えると思うと頭が痛い。
 というわけで本書。犬のあくびは疲労や退屈ではなく、ストレスを感じたり相手への和解を求める印。人間の2歳児程度の言語聞き分け能力を持つという犬の吠え声、尻尾の動き、表情などで示される「犬語」を理解して、飼い犬と意志を伝え合おう、という内容。犬対人間というより、犬同士のコミュニケーションについて多く書かれている。説明するまでもないことだが、そもそも犬の相手は犬なのである。犬はそれを対人間に応用しているにすぎないということが、改めてよくわかる本。読みながら、多頭飼いの人がちょっと羨ましくなってしまった。
なお、バウリンガルについての悪口はDog-Ear Press「晴犬雨読/バウリンガル」(2001.11.9)でもお楽しみになれます。(2002.10.22 白耳)

★★★★


犬たちの隠された生活 The Hidden Life Of Dogs

エリザベス・M・トーマス Elizabeth M.Thomas

深町眞理子・訳 草思社 1600円 [Amazon]

 冒頭で“これからあとのページでわたしが描こうとしているのは、11頭の犬のグループ――5頭の雄と6頭の雌――の生活記録である”と述べられているように、自らの飼い犬たちの長年に渡る観察記録である。
 わたしは一頭のボーダー・コリーと暮らしているが、飼い始めの頃はわからないことだらけだった。犬について書かれた本や雑誌を読みあさり、また、獣医師を始めとする専門家の指導も受けたが、もっとも信頼できたのは、同じ犬の飼い主さんの話だった。著者は人類学者であり、いちいちの考察に専門知識の裏打ちがあることは確かだが、書かれていることの大半は、著者が“この目で見てきたこと”で、飼育環境の違いこそあれ、非常に興味深く読むことができる。愛犬家必読の書。(白耳)

★★★★★


犬たちの礼節ある社会生活 The Social Lives Of Dogs

エリザベス・M・トーマス Elizabeth M. Thomas

木村博江・訳 草思社 1900円 [Amazon]

 名著『犬たちの隠された生活』のその後。トーマス家はニューハンプシャー州ピーターバラに転居。「所帯が大きかった頃は」人間5人、犬7頭、猫9匹、オウム5羽というから羨ましい限り。日本では宝くじでも当たらなければ無理でしょうねえ。『〜隠された』のほうでおなじみのスエッシ、イヌックシュック、ファティマはすでに老齢に達しており、3頭揃ってよれよれと犬としての営みを続けているらしい様子がなんとも。そこへ登場するのが、著者が偶然出会った「異種混合集団の発端」サンドッグ。そしてベルジアン・シープドッグのミスティ、オーストラリアン・シェパードとチャウチャウの混合パール、くせものルビー、夢の犬シーラと続く。著者のいう「異種混合集団」にはもちろん人間も含まれている。

 ある晩、ミスティが起き上がってこっそり下に降りていく物音が聞こえた。犬用のくぐり戸がカタンと鳴り、外に出ていったようだった。おそらく用を足しに出かけたのだろう。ほどなくしてもどってきたミスティの被毛は、冷たく濡れていた。
 私は身じろぎもせず声も出さなかったが、彼女には私が目を覚ましているのがわかった――犬たちはいつも察し取るようだ。彼女はそっとベッドのわきにくると、頭を私の肩に乗せた。顔を押しつけてきたので、私は彼女の体に腕を回した。おたがいのあいだに愛情の波がかよった。ベッドの反対側では、サンドッグがそれを感じとり、やさしく尾で床を叩いた。集団のメンバーが愛情を示しあうのを見ると、犬はときどきこの動作をする。そして眠っている夫も感じとった。あるいはサンドッグの尾がたてる音を聞いたのだろう。眠ったまま、彼は私に腕を回した。(p.83-84)
 世の中、これ以上の幸せがあるだろうか?(2000.9.5 白耳)

★★★★★


ドクター・ヘリオットの犬物語 James Herriot's Favourite Dog Stories

ジェイムズ・ヘリオット James Herriot

大熊栄・訳 集英社 2100円 [Amazon]

 1995年に亡くなった著者が「特に気に入っていた犬に関するエビソード」10篇を収載。表紙ボーダー・コリー。10篇のうち2篇がボーダーコリーの話。
“一九三〇年代の半ばにあっては、動物は重要度に応じて等級がつけられていた。馬、牛、羊、豚、そして犬という順番だった”という時代に、グラスゴー獣医科大学で「馬の医者」になることを決定されたヘリオット青年は、「ほんとうになりたかったのは犬の医者だった」。ノース・ヨークシャーのダロウビーという街でアシスタント獣医の口を見つけるが、勤務先は大型動物診療所。しかし、馬をほかのどんな動物よりも好んでいた同僚のおかげで、犬や猫の治療にあたることになる。
 繰り返し登場する、大金持ちの未亡人に溺愛されるペキニーズ、トリッキー・ウー。往診のたびにカーチェイスを挑んでくるボーダーコリー、ジョック。まさに“傑作選”である。(白耳)

★★★★★+☆


なぜうちの犬は、トイレの水を飲むのでしょうか? 
Why Does My Dog Drink Out Of The Toilet?

ジョン・ロス&バーバラ・マッキーニ

メディアファクトリー 1500円 [Amazon]

“かわいい子犬の写真がたくさん”のQ&A集。カバー表紙に幼気な黒ラブの仔犬を用い、カバー折り返し及び見返し全面犬写真。
 著者はドッグ・トレーナーと、もと作家。新聞のコラムをまとめたもので、犬の飼い主から寄せられた質問と著者の回答という構成。きっぱりとした言い切り型の回答とユーモアに、プロの自信と愛情を感じる。表題にもなっている質問に対する回答は「解決するのは簡単です。トイレの蓋を閉めなさい!」というもの。悩める飼い主さんの肩の力も抜けることでしょう。この手の本としては珍しくお買い得。(1999.6.22 白耳)

★★☆