越犬楽▼其の四




 「きょうの晩飯は肉だ」
 猫がいった。
 「いや、きょうも野菜くずに決まってる」
 のんびりと犬がいった。
 「どうしてわかるんだ」
 猫は犬を睨み付けた。
 「だって、おれがここにいるじゃないか。ご主人は狩りに行ったのではない。おまえはそんなこともわからないのか」
 犬はそういったあと大きな欠伸をした。猫は立ち上がって尻尾を膨らませた。
 「肉だったらどうする?」
 「ありがたく食うだけさ」
 「野菜くずだったらどうする?」
 「いつものことじゃないか」
 「そんなことだから、おまえはいつまでたってもご主人の爪先を舐めて暮らさなきゃならないんだ」
 「おまえこそ膝に乗ってごろごろいうだけの役立たずじゃないか」
 ついに犬が怒りだした。
 「じゃあ肉だったらおまえの目玉をいただくぞ!」
 猫が叫んだ。
 「ああいいさ、でも野菜くずだったらおまえの目玉をいただくぞ!」
 犬がいった。
 晩飯は肉であった。
 「それみたことか」
 猫は舌なめずりをしながら、まず犬の右目を取り出した。
 「猫は知っていた! 猫は知っていた!」
 天井のむき出しになった梁の上で鼠たちが一斉に叫んだ。猫は前の晩に、ご主人が肉を食べ残したことを知っていたのだ。
 「この嘘つきめ」
 怒った犬は猫を捕まえ、同じように右目を取り出した。
 「これはたまらん!」
 猫は大慌てでどこかへ逃げて行った。そして二度と帰らなかった。犬は猫から取った目玉をじぶんの右目にはめた。逃げた猫もまたそうした。
 オッド・アイのはじまりである。(2000.9.5)




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