越犬楽▼其の五




 神様は眠かった。ちょっとでも気を抜くと、たちまち眠り込んでしまうほどであった。
 「こんなことでは仕事にならん」
 神様は冷たい水で顔を洗ったり、立ち上がって伸びをするなどしたが、それでも眠気は去らない。
 「神様! 神様!」
 耳もとで声がした。顔見知りのニンフだった。
 「さきほどからお休みになりたいでのはありませんか? 少し横になったらいかがでしょう。そのあいだ、このわたくしめが番をしております」
 「おお、それはありがたい。ではしばらくのあいだ、しっかり頼むぞ」
 神様はそういって横になると、たちまち大きな鼾をかきはじめた。

 「しめしめ」
 神様はこれから生まれる命に魂を授ける当番だった。ニンフは神様の椅子に座り込み、大きな箱の蓋を開けた。中にはたくさんの「魂のもと」が入っている。
 「次の者!」
 ニンフが叫ぶと、順番を待っていた命が前に進み出た。その命は人間だったが、ニンフが箱から取り出したのは犬の魂だった。次の命は馬だったが、ニンフは人間の魂を授けた。
 「ひゃひゃひゃひゃ!」
 すっかり愉快になったニンフは大声を上げて笑いながら、次々と当てずっぽうな魂を授けていった。
 ときどき動物がしゃべるのはそのせいである。また、どことなく何かの動物に似た人は、いたずらなニンフに魂を授けられた人の子孫である。


 小森のおばちゃまは、実はマルチーズの魂を授けられた人間である。ここだけの話。


 野村沙知代は、ああ、やめておこう。悪のりはよくない。(2000.9.22)




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