越犬楽▼其の七
そんなある日、湖のほとりに木こりと犬がやってきた。仕事を終えた気安さからか、木こりは街のバールでしたたかに酒を飲み、足元さえおぼつかない有様だった。
「ああ、喉がかわいた」
木こりは湖の水を手ですくい、のどを鳴らしてうまそうに飲んだあと、そのまま眠り込んでしまった。目が覚めると犬の姿が見えない。木こりは慌てて犬を探し始めた。
「おうい、おうい、どこへ行ったんだ!」
すると湖の中から女神が出てきた。
「おまえが探している犬は、この中のどれですか?」
女神の傍らには四匹の犬が控えていた。木こりはすぐにじぶんの犬を見つけたが、ほかの三匹に比べ、ずいぶん見劣りがする。
「ええっと、それでは申し上げます。わたしの犬はその炭色の犬です」
木こりはさんざんもったいぶった挙げ句、きょうだい犬の一匹を指さした。
「ほほほほほほ!」
女神の高らかな笑い声とともに風が吹き、木こりは思わず尻もちをついた。
「あいたたたた!」
ようやく立ち上がると、目の前に黄金色に輝く立派な犬が現れた。よく見ると、さっきまでみじめにうなだれていたじぶんの犬であった。
「間違いました!」
木こりは叫んだ。
「わたしの犬はこの犬です!」
だが、女神は許さなかった。黄金色に輝く犬は、ほかの三匹とともに嬉しそうに尻尾を振りながら、どこかへ行ってしまった。
ゴールデン・レトリーバーのはじまり。酒の飲み過ぎと嘘はよくないという話。
このつづきはまたいつか。(2000.11.11)
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