犬友1:会話編


【初級】
 「こんにちわ」
 「こんにちわ」
 「いいお天気ですね」
 「ええ、ほんとに」
 「かわいいですね、何歳ですか?」
 「3歳になりました。そちらは?」
 「うちはもう7歳です。男の子ですか?」
 「女の子です」
 「お名前なんていうんですか?」
 「マリアっていうんですよ、そちらは?」
 「ゴンザレスです」
 「マリアちゃんっていうんだー」
 「ゴンザレスちゃんなんだー」
 「どうもお引き留めしまして、じゃあねマリアちゃん」
 「いえこちらこそ、バイバイ、ゴンザレスちゃん」


単語
 男の子:オス 女の子:メス 〜ちゃん:敬称の一。
解説1
 犬友の間では、相手の犬の性別をいうとき男の子女の子を用いる。しかし、じぶんの犬の性別はオスメスを用いることが多い。
解説2
 相手の犬を呼び捨てにする人はまれである。ふつうちゃんをつける。さんであることは、まずない。また、飼い主に対しては敬語を用いるが、犬に対してはほとんどタメ口である。



【中級】
 「こんにちわ。マリアちゃん元気ぃ?」
 「こんにちわ。おっす、ゴンザレスちゃん。きょうは早いですね」
 「ええ、なんだか雨が降りそうなので」
 「毎日どれくらいお散歩されてます?」
 「朝と夕方の2回です。そちらは?」
 「同じですよ。たいへんですよね」
 「ええ、ウンチしないんで困ってるんですよ」
 「あれま、まだしてないんだー」


単語
 ウンチ:うんち
解説
 健全な犬には健全な腹具合が宿る。外でしか排便をしない犬の飼い主はとくに大変である。雨が降ろうが雪が降ろうが、台風だろうが二日酔だろうが、ともかく犬がその気になるまで付き合わなくてはならない。毎日のうんちは飼い主共通の悩みであり、どんな人でもこれを話題にすることにまったく躊躇がない。



【上級】
 「こんにちわ」
 「……こんにちわ、あの、どちら様でしたかしら?」
 「ああ、ごめんなさい。イングリッシュ・スプリンガー・スパニエルのマリアです」
 「なんだ、マリアママじゃない、わかんなかった」
 「犬がいないとわかんないよね」
 「ほんとに」


単語
 〜ママ:飼い主の便宜上の呼称の一。
解説1
 犬友は特別なことがない限り名乗り合うことがない。だが、犬の名は知っていることが多いので、便宜上、女性の場合犬の名+ママ、男性の場合犬の名+パパと呼ぶ。親しさの度合いによっては「〜ちゃんのママ・パパ」あるいは「〜ちゃんのお母さん・お父さん」とする場合もある。同様に、そこんちの子どもについては「〜ちゃんのお姉ちゃん・お兄ちゃん」という。まれに「母・父」「母上・父上」といったりなんかする人もいるが、かなり特殊な例である。
 尚、この法則は、明らかに犬が家族を見下している場合でも、問題なく適用される。
解説2
 犬友は近所に住んでいるので、思いがけないところで会うことがあるが、なぜか上記のようなことになることが多い。おそらく犬とセットで認識されているからだろう。これぞほんとうのワンセットである。冗談はさておき(笑)、そこで名乗ることになるわけだが、なんせ犬の名しか知らないから、「×丁目のなにがしです」といっても、わかりっこない。というわけで上記のような不思議な会話になる。(つづく)



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