親の気持ち


 以前住んでいた家の近くに、ラッキーという牡のボーダーがいた。テスのほうが少しお姉さんだが、さすが牡、筋骨隆々の見事な体つきだった。飼い主は、若い夫婦に小学生の子供二人。全員話好きで、飼育に関しても熱心に取り組んでいるようだった。朝夕の散歩に加え、自転車で引き運動をさせているというし、キャンプに連れて行ってフリスビーをさせているとも聞いた。だが、それ以外の時間、ラッキーは、目隠しをしたウッドデッキに繋がれていた
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 不在の多い家だった。わたしは通るたびに、目隠しのわずかな隙間からラッキーに挨拶をした。暗くてよく見えなかったが、ときどきうんちやおしっこをしていた。係留用のロープがからまって、身動きできなくなっていることもあった。熱心に取り組んでいるというわりにはまことに雑な飼育環境であるが、犬に対する考え方は人それぞれである。しばらくの後に「留守中に吠えて困る」と聞いたが、それでもラッキーを部屋に入れる様子はなかった。
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 世間は狭い。ラッキー家は親しくなったお向かいさんの親戚だった。
 ある日、わたしはお向かいさんのバーベキューに招かれた。間もなくラッキー一家がやってきた。小学生のお姉ちゃんが、テスを見て「あっ、ラッキーの彼女!」と叫んだ。「ぬぁにぃ?」と思った。そのうち、同犬種が嬉しそうにたわむれる姿を見たまわりの人々も「彼女なんだー」「よかったねラッキー、彼女に会えて!」などと言い出した。なんだか無性に腹が立った。なんでテスがラッキーの彼女なんだよ。誰が決めたんだ? そんなウンコ垂れ、冗談じゃねえよ
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 その後もラッキーとの付き合いは続いた。ある日、飼い主の飼育自慢を聞きながら犬を遊ばせているとき、体重1.5倍はあるラッキーがテスに腹を見せて降参をした。すごく愉快だった。わっはっは!(2000.9.22)



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