少女と犬2


 次に会ったときもハナタレはやっぱり鼻水を垂らしていた。
「こんにちわ」
「……こんにちわ」
 おずおずとハナタレがこたえた。散歩の帰りなのだろう、足元に例のトート・バッグが置かれている。何気なく覗くと、トイレット・ペーパーが1個、どおんと入っていた。過日の一件に懲りたのか、それにしてもなかなかダイナミックな発想である。
 仔犬の成長は早い。前に見たときはまだ仔犬くささを漂わせていたエアデール・テリアが、すっかりじじくさい顔になっていた。
「大きくなったねえ、何キロくらいあるの?」
 沈黙。ううっ、まずい。
「……首輪、おなじ」
 ハナタレが口を開いた。返事にはなっていないが、ほっとした。
「うん、同じだね」
「……うち、あそこなの」
 唐突にハナタレがいった。目線の先には同じような家が並んでいる。
「あの黄色い自転車のあるとこ?」
「そう!」
 ハナタレは嬉しそうにその場でぴょんぴょん跳ねた。
「何年生なの?」
「2年生」
「じゃあもうすぐ3年生になるんだ」
「うん。いくつ?」
 そういってハナタレはわたくしの顔を見た。率直にトシを訊かれるのは久しぶりである。完全に意表を突かれた。正直に答えるとハナタレはとても不思議そうな顔をした。もうすぐ3年生ということは7歳か。兄ちゃんが10歳くらいだとして、両親がわたしより年下であることはじゅうぶんに考えられる。
*

 それからしばらく一緒に犬を遊ばせた。近くのペットショップでシャンプーとトリミングをしてもらっていること、豚の蹄がお気に入りで、あげるといつまでも噛んだり舐めたりしていること。ハナタレは訥々と、でも楽しそうにジャックの話をした。家族全員で可愛がっている様子がひしひしと伝わってきた。
「じゃあ寒くなってきたから帰ろうか」
 そういうとハナタレはとても寂しそうな顔をした。
「また遊んでね」
 去りかけたとき、ハナタレは小さな声でそういった。なぜか、たまらなく嬉しかった。(つづく)



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