見張られて


 わたしはいつもテスに見張られている。
 少しでも気を緩めるとふさふさと尻尾を振る音がする。見て見ぬふりをしていると、忍び寄ってきてすうすうと生ぬるい鼻息を浴びせ、「ちょいとちょいと」とでもいうように前脚をかけてくる。

 それでもだめだと、お次は「待ち伏せ」である。テスはわたしの行動を予測し、先まわりしてみせることを楽しんでいるふしがある。洗面所やトイレの前で、台所の入り口で、薄暗い寝室のベッドの上で、のろまなわたしが現れるのを見るや「どうよ」とでもいいたげに勝ち誇った顔をする。

 散歩やごはんといった正しいお願いはいいが、のべつ「かまえ、遊べ」はたまらぬ。ほかに遊び相手がいるわけでもなし退屈なのは痛いほどわかるが、「ヒマ」を気取られたくないがために、いつも忙しぶっていなくちゃならないわたしも辛い。必要もないのにマウスを転がしたり、頭をかきむしったり、つまらない本を面白がるふりをしたり、立ったままお菓子を食べたり煙草を吸ったりしていると、なにやら情けない気分になる。

 さいきんになってようやく別々の部屋で過ごすようになったが、わたしが次の行動を起こすことに思い至ると疾風のように現れる。
 テスは手を抜いているのではなく、ついに見張りが堂に入ったのである。(2001.1.19)



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