飼い主冥利


 先日、うちに遊びに来た人が「あの、ふかっとした鼻のあたり、触りたいんだけどなー」といってたけど、いまのところうちに来る人の多くは、触るどころか、テスが暴れている姿しか見ることができない。
*

 家にいるわたしは、食ってるか飲んでるかパソコンに向かっているか本を読んでいるかのどれかなんだけれども、たとえば食後にコニャックをやりながら(嘘。安焼酎の残りだったりする)本を読んでいると、よちよちとテスがやってきて向かいの椅子によっこらしょと座り、アゴをテーブルに載せてじっとわたしを見つめる。

 わたしは大げさにため息をつき、読み終えたページとこれから読むページの間にスピンを挟み本を置く。そしてテスが好きなお話をしてやる。

 その話というのは――むかしむかし洗濯担当者の婆さんが川で拾った大きな桃を持ち帰って切ってみると、中からボーダーコリーが出て来る、というもの。これを聞かせるとテスは……

「おばあさんはその桃をおうちに持って帰りました」
 というところまで大人しく聞いているんだけど、
「そして」(ぴくっ)
「その桃を」(ぴくぴくっ)
「切ったら」(ぴくぴくぴくっ)
「なんと!」(椅子の上で立ち上がる)
「中から!」(腰溜めのポーズ)
「黒と白のボーダーコリーが!」(椅子から飛び降りてぐるぐる回る)
「出てきましたぁ!!!!」(がんがん走る)
 上記のようなたいへん興味深い反応をします。飼い主冥利に尽きますなあ。(2001.2.16)



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