他犬の空似2


 犬を通じて人と知り合うことが多いが、どうも犬とセットで認識されてしまうらしく、ひとりで歩いているときに出会っても、無視されるか、不思議そうな顔をされるかのどちらかである。いつものように挨拶をして不審がられてしまったことがある。もちろん逆の場合もあって、ふいに声をかけられてどぎまぎしてしまったことが何度かある。

 中には、先に「ポチの佐藤ですう」など言って下さる方もあるが、それはそれで妙な会話である。犬の飼い主同士は犬の名前しか知らないことが多い。

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 近所の公園で、アケボノという立派なジャーマン・シェパードを連れた男性に会う。親しく話すようになって間もなく、彼が「この辺でよくボーダーコリーに会いますよ」といった。ボーダーとはすでに2頭、知り合っていたから、わたしはてっきりそのどちらかだと思い、会いたかったこともあって、見かけるという場所と時間帯を訊いた。「今朝、××のあたりで男のかたが連れてて…」
 夫である。テスの散歩は一日2回。朝の部は夫が、夕方の部はわたしがする。彼の頭の中では、“男のかた”が連れているボーダーと、わたしの足元ではあはあいっているボーダーは、まったく別の2頭の犬ということになっていたのだ。

 この『セット認識傾向』は、女性より男性のほうが強いように思う。もっとも身近な男性であるところの夫にしても、相手が犬を連れていないとさっぱりで、適当に話をして別れたあと「だれだっけ?」「××ちゃんの飼い主さんじゃない」「そうか」てなもんだ。また、アケボノの飼い主さん同様、同じ犬でも飼い主さんが変わるともうだめである。「おっゴールデン」というので見ると、よく知っているゴールデンだったりする。そういうときリードを持っているのは、いつもの奥さんではなく、休日のお父さんだったりする。

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 ところで、わたしはアケボノの飼い主さんに本当のことをいわなかった。面白いのでしばらくそのままにしておこうと思ったのだ。
 というわけで、いまのところ、この辺にはよく似た2頭のボーダーコリーがいるということになっているという話。(2001.3.23)



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