しゃべるおばさん2


「おばさん」の定義は難しい。西暦2001年現在、いったい何歳くらいから「おばさん」なのか。
 わたしはよく小学生にタメ口を利かれるが、それはいい年をしていつもくたびれた恰好をしているからだと思う。むかし、わたしくらいの年の女性はジーパンなんか穿かなかった。大きい子供のひとりやふたりはいて、パーマヘアで、家でもブラウス・スカートを着用し、運動靴などそれこそ運動するときしか履かなかった。いまでも子供がいるお母さんは、きちんとしている人が多い。若くてもお母さん然としている。そういうちゃんとした人を基準にすると、わたしは年齢不詳の怪しい姉ちゃんにしか見えないだろう。

 そうなってくると見かけより内容の問題だ。わたしは(百歩譲って)おばさんとして、おばさんを見分ける方法は「おばさん性」に他ならないと思っている。おばさん性とは何か。電子機器の操作がさっぱりだったり、スーパーでタダのビニール袋をたぐってたくさん持ち帰ったりするのもそうだと思うが、おばさんじゃなくてもそういう人はいる。もっと基本的な、たとえば会話中にひしひしと感じる「座りのわるさ」のようなもの。以下、事例。

*

 いつもの散歩中、犬連れの人に会う。「こんにちわ」とわたしは躊躇なく声を掛ける。なぜなら顔見知りだからである。だが「おばさん」はちょっと戸惑ったような顔をする……人違い?

私 「……ピーちゃん(犬の名)ですよね?」
おば「そうよ」(なんで知ってるのかしら? という感じ)
私 「ピーちゃんいい子ねえ」(仕方がないので犬をかまう。犬はもちろん覚えているので尻尾エンジン全開)
おば「いつもきれいねえ。真っ黒。つやつやしてる」(思い出したらしい)
私 「お嬢さんはお元気ですか?」(前回、犬の面倒を見ないとさんざん愚痴をきかされた)
おば「また大きいバイク買っちゃったのよ」(初耳である)
私 「へえ。バイクに乗られるんですか」
おば「下のはホームに行ってるでしょう? だから大変なの」(お嬢さんはバイクに乗るのか乗らないのか。「また買った」というくらいだから乗るんだろう。下のとは下の子供だろうか。ホームとは何だろう。留学でもしているのか。それとも老人ホームにでも勤めているのだろうか。そして、いったい何が大変なのか)
私 「はあ……」
おば「このあいだもタケノコ、段ボールにこーんないっぱい持って来ちゃって」
私 「タケノコ……?」(ホームとは食品関係の何かだろうか)
おば「そうなの。あたし先にぜんぶ皮剥いて茹でるの。香り飛んじゃうけどね。ほうぼう配ったんだけど、うちタケノコ好きな人、いま居ないじゃない? だからまだあるのよ」(香りが飛ぶことを知っていながら剥いてしまうのはなぜか。ところでタケノコとは生でも容易に皮が剥けるのか。ところでタケノコ好きな人とは旦那のことだろうか。どうしていま居ないのか)
私 「はあ……」
おば「この犬なんていうの?」(いきなり話題転換)
私 「……テスといいます。ボーダーコリーです」(何回言えば覚えてくれるのだろう)
おば「毛が抜けるでしょう」(やっぱり聞いちゃいねえような気がする……)
私 「けっこう抜けます」
おば「ねえ」(何が「ねえ」なのだろう。犬ってほんと毛が抜けて困っちゃうわよねえ、の「ねえ」だろうか)

 念のために補足しておくが、この「おばさん」は年寄りではない。茶髪にニューバランスのスニーカーを履いた溌剌とした人である。見かけ五十代半ばといったところか。
 上記のような、人の話を聞かない、じぶんが話したいことだけを話したいように話す、そしてきれいさっぱり忘れる、というのが「おばさん性」だとわたしは思うが、いかがなものか。慣れると腹も立たないんですけどね。(2001.5.23)



INDEX|PREVIOUS|NEXT




Copyright (c)2000-2001 by Shiro-Mimi and Dog-Ear Press.
All rights and bones reserved.