犬タオル


 我が家には3種類のタオルがある。ハンドタオル、フェイスタオル、バスタオルではない。「客タオル」「人間タオル」「犬タオル」である。
 
客タオル」は刺繍入りのブランド品で、いざというときのために大切にしまってある。それにしても「いざというとき」とはどういうときなのだろう。いまだかつてそのような事態になったためしはない。

人間タオル」とは、ふだん使いの各種タオルのことである。わたしはいいタオルには目がないが、どんなにいいタオルでも、長く使えばすり切れて使い心地がわるくなるから、時期をみて整理することにしている。
犬タオル」の誕生である。

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 だから我が家でいちばんのタオル持ちは犬。昨日までバスルームの棚で威張っていた人間タオルも、犬用のタオル籠に放り込まれた瞬間から犬タオルになる。一度でも犬が使うと、洗濯してもなんとなく犬くさく感じるから不思議だ。

 わたしの母は洗濯物の分類にはたいへんうるさい。そのうるささたるや、生まれてすぐにこれとこれを一緒に洗ってはならぬという複雑な呪いをかけられたとしか思えない。わたしはそんな母のおかげで、なんでもかんでも一緒に洗濯するという誠に雑な女になった。色柄ものだろうがジーンズだろうがぜんぜん気にしない。雨の日の泥足を拭った犬タオルだって、ざっと濯いでパンツと一緒に洗濯機にぶち込むのである。

 洗濯という仕事は洗濯機がすべてをやってくれるわけではない。洗い終わったら干さねばならぬ。乾いたらいちいち畳まねばらなぬ。さらに箪笥やクローゼットにしまわねばならぬ。そんなわけで雑なうえに根性もないわたしは、途中ですっかりくじけてしまい、畳んだものをそこらに放ったまま、ぐうぐう寝てしまう。

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 家人は汗かきで、夏場はハンカチごとき布きれでは間に合わないらしく、鞄のポケットにハンドタオルを忍ばせている。
 先日、我々はお洒落なことで有名なイタリー料理店で待ち合わせをした。遅れてやって来た家人が「暑いね」といいながら鞄から取り出し、やおら顔を拭い始めたタオルは、ほつれ薄汚れた、紛うことなき犬タオルであった。(2001.7.26)


【家人よりひとこと】
 汗かきなのは否定しませんが、私が間違えて持っていった犬タオル、先週まではたしかに人間タオルでした。ほんとうです。しかも人間タオルの棚にあったんです。文句をいったら「どこにあろうが気がつかないほうがおかしい」といい返されました。まったく口の減らない犬――じゃなくて人間です。




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