お父さんの仕事


「家族対抗歌合戦」というテレビ番組がむかしあった。
 素人さんの家族がくまさんチームなどというあれだ。その番組の中で、子どもが司会者にお父さんの勤務先を尋ねられ、「電電公社です!」と答えていたのをよく覚えている。小さかったわたしは、でんでんこうしゃとはいったいどういう会社なのかと思っていた。

 友だちの家に遊びに行って、3歳の息子に「お父さんは?」と聞いたら、「会社」という。「会社で何してるかなあ」とたずねると、「お昼ごはん食べてる」だって。彼のお父さんは愛妻弁当を持って行くため、幼い息子は、会社とは弁当を食べに行くところだと思っているらしかった。


*

 うちのテスが、お父さんであるところの家人が、毎日どこへ出掛けていると思っているかは謎だ。肉の塊を持って帰ってくるわけじゃないから、獲物をとりに行っているとは思っていないだろう。
 考えられるのはゴミ捨てだ。家人はたいていゴミ袋を持って家を出る。そのまま戻って来ない日が多いが、ときどきすぐに戻って来ることもあるから、テスは家人が出掛けると、しばらくは玄関で待っている。

 先日、家人は散髪のために美容院へ行った。ちょうど散歩の時間になったので、コースを変更して美容院の前を通ってみようと思った。その美容院はビルの1階にあって、ガラス貼りのため通りから中が丸見えなのだ。
 家人はシャンプーの最中だったから少し待つことにした。担当の美容師さんがわたしたちに気がついて合図をしたが、テスは知らんふり。しばらくの後、家人が席に向かってくるとやっと気がついたようで、ぐいぐいとリードを引っ張りガラス越しに家人に飛びつこうとした。

 翌日、いつものコースを一回りして戻ると、テスが踏ん張って家に入ろうとしない。ふだん聞き分けがいいだけに、テスの踏ん張りには説得力がある。仕方がないので勝手に歩かせてみたら、なんとテスは美容院に向かった。

 どうやら家人はゴミ捨てから美容院に転職したらしい。あっはっは。(2002.3.20)



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