意地悪なわたし



 夕方、テスを散歩させていると、パタパタと足音がする。子どもだ。女の子。小学2年生くらいか。後ろのほうで赤いランドセルを持っているのは母親だろう。あっ犬がいる、さわってきていい? いいわよ、じゃあそれ持っててあげる――という会話がなされたかどうかは不明だが、ときどき似たようなことがある。追いかけてくるだけならいいが、断りもなしに触ろうとするから始末がわるい。ふいに尻尾を掴まれてびっくりしたことがあるくらいだ。

 振り返ったときに目が合ったからか、女の子は立ち止まった。わたしが待っていてくれると思ったのは明らかだ。「犬すきなんだー」みたいに。犬を連れている人はみんないい人で、大人の女はみんな子ども好きだと思い込んでいる子どものなんと多いことよ。そうとは限らないのだよ、お嬢ちゃん。

 犬を連れていても悪い人で、子ども嫌いの大人の女であるわたしは走り出す。たいていの子どもはそこであきらめる。だが、その女の子は違った。またぱたぱたと走り出したのである!
 わたしは走る速度を上げた。気分を察したテスもどんどん走り出す。角を曲がってもう来ないだろうと思って振り返るが、まだついてくる。母親はなにをしている母親は。さらに速度をあげる。公園脇の小道を抜けて、階段を降りてもまだついてくる。階段を降りきったところで、わたしは振り返った。母親の姿は見えない。しめしめ。「だめっ」とでかい声でわたしは言う。そしてまた走る。10メートルくらい走ったところで振り返ると、もう女の子はいなかった。

 子どもと犬。心あたたまる組み合わせだ。
 しかし現実には、子どもと犬ほど飼い主をはらはらさせる組み合わせはない。とくに小学校低学年くらいまでの小さい子ども。落ち着きがない、奇声を発する、急に触る。子どもがいる家の犬は慣れているかもしれない。でなければ、よほど我慢強いか、ぼんやりしている犬以外は、警戒してあたりまえだ。犬が人間を咬めば、咬まれた人間がどうであれ、ぜったいに犬のほうが悪くなるということを、とくに子どもの親たちはぜひとも肝に銘じておいてほしい。
 わたしは意地悪です。でも反省しない。(2002.8.6)


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