タマちゃん



 さいきんでは多摩川と鶴見川に現れたアゴヒゲアザラシで有名だが、うちで「タマちゃん」といえばテニスボールのことである。テニスの硬球、黄色いやつ。テスの遊び道具のひとつだ。
 最初にあてがったのはいつだったか。いまやテスはタマちゃんなしではいられない。すきあらばくわえてきて「投げろ」ということはもちろん、遊ぶ気がないときでも所在が確認できていないとだめ。見つからないと家じゅうをうろつきまわって探し、ときにはわたしや家族に一緒に探すことを強要したりもする。
 こいぬの頃はすっかりくわえることが出来ず、表面の繊維を歯に引っかけてぶらぶらさせていたが、いまではジャストフィット。ボールのサイズに合わせて成長したのではないかと思うくらいだ。(犬ほめ「テスの仔犬時代3」写真参照)

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 相変わらず夜は一緒に寝ているが、ベッドに上がるときもテスは必ずタマちゃん持参。あっちコロコロこっちコロコロ、どこにあるかわからないので寝返りの際は要注意である。またテスは目を覚ましたときにタマちゃんがないと布団や枕を掘って探しまくる。騒々しいったらありゃしない。

 なにしろすきあらばくわえてきて「投げろ」というのだから、こっちもタマったもんじゃない。だから無視する。そうするとテスめ、犬なりの工夫をする。

 次の行動を先読みするのはお手のもの。部屋の出入り口や通り道にさりげなくタマちゃんが置かれている。うっかり蹴っ飛ばしてでもくれたらシメたものということなのだろう。

 席を立って、再び座ろうとすると座面にタマちゃんがっ。座るためにはどかさなければならない。ボールを掴もうと手を伸ばした瞬間、背後に期待に満ちあふれた視線を感じる。

 シャワーを浴びて浴室のドアを開けると、体重計の上に麗々しくタマちゃんがお供えされている。わたしがシャワーのあと必ず体重を測ることを知っているのだ。

 冷蔵庫の野菜庫によく冷えたタマちゃんが入っていたことも二度ほどある。冷やしタマちゃん始めました。始めないよそんなもの。野菜を出し入れするわずかの間に入れたのだ。
 問題は入れた本犬が、そのことをきれいさっぱり忘れるということだ。そういうところが犬らしいといえば犬らしいのだが、捜索に付き合わされたほうの身にもなってくれよ。とほほ。

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 さて、上のような工夫を弄してもこちらがやる気にならないときはどうするか。テスの最終手段ともいうべき“ウルトラC”は、おしっこである。室内トイレにおしっこをして、その脇にタマちゃんを置くのである! ペットシーツを取り替えるためには、どうしてもタマちゃんをどかさなくてはならない。
 パソコンに向かうなどしているときに、どこからともなく香ばしいにおいが漂ってくる。テスがおしっこをしたのだ。重い腰を上げシーツを取り替えに行く。すると黄色いおしっこのシミの脇に黄色い……タマちゃん。しなくてもいいようなおしっこゆえ、ほんの少しだったりするから憎さ百倍。頭に来て思いっきり放ったりするから、テスの思うつぼである。

 そんなタマちゃんも動かなければ面白くもなんともないわけで、テスにとっては、ボールと、それを動かしてくれる人間はワンセットなのだ。こうしてわたしは日々、テスに遊ばれている。

 それでも、考え方を変えればいいことのひとつくらいはある。
 テニスボールは表面が繊維なだけに、しばらく遊ぶとヨダレがしみて、床のホコリや犬の毛(じぶんの抜け毛だ)なんかがまつわりつく。それが口中に入って不快らしく、ときどきお口をぺろぺろちゃくちゃくしている。飲み込んでもどうということはないと思うが、とっつかまえて口に指を突っ込んで取ってやる。こいぬ期からそうしていたおかげか、テスは口に指を入れられることに慣れており、歯石を取るのが楽である。

 なお、湿って汚れたボールは洗濯するときれいになる。時期によってはカビの心配もあるので、こまめに取り替えたほうがいい。ネットに入れてふつうに洗い、天日でよく乾かしてまた使いましょう。(2002.9.4)


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