生きる力 ――7歳の誕生日に



「やっとさわらせてもらった」とよく人が言う。テスのことである。
 テスは家族以外の人間をボール投げマシーンだと思っているから、そう簡単にはさわらせてくれない。遊び飽きるか疲れるかして、ほかのことに気を取られているようなときに手を出せばなんとかなるだろう。それでもさっと頭を撫でられればいいほうだ。わたしは好きなだけテスをさわることができるが、その背景には何万球ともしれないボール投げの実績がある。

 とはいえ、のべつ遊んでやっているわけではない。子犬の頃はあまりについて回るのでノイローゼになりそうなくらいだったが、さいきんではわたしが用をしているときは近寄って来ない。どこか、監視可能な場所で居眠りをしていたりする。気を抜くとよちよちやってくるが、かまってもらえないことがわかると、またよちよち去って行く。
 だが、夕方もいい時間になってくると話は別で、何度もやってきては思わせぶりな顔をし、わざとらしくうろつき回っている。いよいよ焦れてくると、室内トイレでおしっこをし(おしっこをしないと散歩に連れて行ってもらえない)、後足でばりばりとありもしない砂を掻く。わたしが散歩の支度を始めると、子馬のように跳ねながらつきまとってくる。この様子は子犬時代から変わらない。

 午後の散歩は時間にして30〜40分。毎日ほぼ同じコースを歩き、最後にお寺の参道の柵でスラロームをして帰る。  玄関でリードを取ってやり、クローゼットにしまって振り向くと、おすわりをしてじりじりしながら待っている。上がり框に腰を下ろすと飛びついてきて、わたしの両耳を交互にかむ。2年ほど前から決まってこうするようになった。
「きょうも一緒に散歩に行けてよかったよかった!」
 と言っているような気がして、「よかったねー」と応えると、さらに喜んで耳をかむ。ふざけて仰向けになると、乗ってきて顔をべろべろ舐める。
 あすも生きていよう、そしてまた散歩に行こうと思う。
 テスはきょう7歳になった。(2004.2.29)


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