おもちゃをつくろう



「おもちゃを作ろう」じゃなくて「おもちゃを繕う」です。犬のおもちゃの作り方を知りたくて、検索でたどりついた人、ごめんなさい。

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 わたしは裁縫がヘタである! わたしが針仕事をしているのを見て、母が「ぷっ」と吹き出すくらいヘタだ。裁縫ができなくても恥じることはない時代に生まれて本当によかった。
 それでもまあ、ボタン付けとまつり縫いくらいはなんとかなる。ボタンは取れちゃったらアウトだし、ズボンやスカートの裾は、ほころびたままというわけには行かない。だから年に数回は、押し入れの奥から裁縫箱を取り出して、せっせと針仕事をする。「否応なしに」とは、こういう状況を言うのだ。
 テスは、この必要に迫られて身につけた最低限の技術を最大限に活かす機会を、わたしに与えてくれた。

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 テスがおもちゃをたくさん持っていることは前にも書いた(「犬と生活」参照)。
 デンタルコットンやテニスボールはぼろぼろになったら処分して、新しいものを買い与えればすむ。しかし、布製のぬいぐるみのたぐいは別である。色や形がちがうからか、ひとつひとつをきちんと区別して、目的別に使い分けているようなのだ。そのとき遊びたいものがおもちゃ箱の下の方に入っていると、出てくるまで掘る掘る。家具の隙間などに入っていて見あたらないと、うろうろといつまでも探したりする。そんなことだから、いくらぼろぼろになっても処分するのは気がとがめる。
 ぬいぐるみというものは、文字通り縫って包
(くる)んである。犬はぬいぐるみにお洋服を着せたりごはんを食べさせたりはしない。何かに見立てて、乱暴にかみついてちゅうちゅう鳴らしたり、振り回したりして遊ぶ。どんなに丈夫な布地でも、縫い目がほころびるのは時間の問題だ。気がつくと、クマやワニの背中がぱっくり割れて中のワタがはみ出している。

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 ほかにおもちゃはたくさんあるというのに、わたしがほころびを繕っている間、テスはずっと待っている。なにしろ、まっすぐ縫うのもままならいのだ。ぬいぐるみの縫い目は細かく、変化に富んでいる。ヒステリーを起こしかけて手を休めると、テスめ、よちよちと近づいてきて、これみよがしににおいを嗅いだりする。「あの、まだでしょうか」といわんばかりの態度だ。腹立たしいので無視すると、こんどは少し離れたところで伏せて待つ。これはすごいプレッシャーである。
 ようやく出来上がったものを放ってやると喜んで、しばらくそれで遊んでいる。

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 告白するが、わたしはそうして繕ってやったおもちゃでテスが遊ぶとき、とてもしあわせな気持ちになる。「きれいにしてあげてよかった」と心から思う。ささやかではあるが、まとまった充足感がある。そして、この歳になって初めて、むかし人形の服やぬいぐるみを繕ってくれていた母の気持ちに思い至る。(2004.2.10)


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