犬、その部位別雑記1/耳
テスの耳は半直立耳(セミ・プリック・イヤー)である。当サイトの名「Dog-Ear」は、この耳の形にちなんだものだ。子犬の頃はもっと垂れていたが、大きくなるにつれて起きてきた。薄くぴらぴらしていて、艶のある柔らかい毛に覆われている。さわるととてもきもちがいい。きもちがいいのですっかりくせになり、よその犬の耳でも気がつくとさわってしまっている。大きな犬の耳は厚く、小さな犬の耳は薄い。また、同種で同じくらいの大きさでもメスよりオスのほうが厚い。さわることを拒まれたり嫌がられたりしたことはまだない。かくっと外側に折って裏返しにしてもあまり気にしない。
アメリカン・コッカースパニエルの耳をさわっているとき、この毛の下のどのあたりまで身が入ってるんだろうと思って確かめたら、かなり先のほうまで身だった。ごはんを食べさせるときは専用の台付き食器を使うか、スヌードという人間のシャワーキャップのようなものをかぶせると聞いた。耳を隠した犬の顔はアザラシやオットセイに似ている。
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人間の耳も犬のように動けばいいのにと思うことがある。
犬の耳は必ず聞きつけた音のほうを向く。ひじょうに感度のいい自動集音器ようなものだ。こちらに顔を向けていなくても耳の動きには要注意である。犬は人間よりずっと耳がいいから、ひそひそ話でも聞かれるおそれがある。
耳は風を感じたときも動く。ぴくっとする程度のものだが、寝ている人間の鼻息のようなささやかな風でも動く。耳にふーっと息を吹きかけると、なぜか決まってぶるぶるをする。
なんでもないときに頻繁にぶるぶるをするようだったら、耳の中に不快ななにか入っているかもしれないので注意したい。テスはこれまでに2度、病院で耳を洗浄してもらったことがある。
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犬は耳がいいので「さぞかしうるさいでしょうね」と言う人がいるが、音そのものを増幅させる機能があるとは考えにくい。だが、人間より早く音をキャッチできるのだろうし、聞こえない周波数の音が聞こえるというから、たくさん聞こえてうっとうしいということはあるのかもしれない。
それとは別に、犬の耳には自前のフィルターのようなものがあると思われる。じぶんにとって都合のいい話は聞こえても、よくない話は聞こえない。うれしい音は聞こえても、そうでない音は聞こえない、といったような。
うちの冷蔵庫にはゆでた鶏のササミやだしを取ったあとの煮干しが入っている。テスのおやつである。じぶんのササミや煮干しが入っていているタッパーウエアの音がするや、どこにいてもすっ飛んできておすわりをする。ほかの用で冷蔵庫の扉を開け、ちょっと手がそのタッパーウエアにふれただけでも飛んでくる。
それとは逆にいやなこと――たとえば歯石を取ってやろうと思い立ったときなどは、呼んでも決してやって来ない。どんな猫なで声で呼んでもだめである。わたしの取りつくろった声の調子や、洗面台の小引き出しから歯石除去用のスケーラーを取り出す音がオミットの対象になっているのだろう。こちらから探しに行くと、部屋の隅やテーブルの下で、ばりばりとわざとらしく後足で首を掻いたりしている。そんなときのテスに、わたしはいつも「きょう耳日曜」という古いギャグを思い出す。
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もっとも謎なのは、うれしいときの耳の動きである。鳥が羽を閉じるときのように、後ろ向きにぴったりと伏せる。大きな物音に驚いたときも同じ状態になるが、そのあとの態度がちがう。
飛び跳ねるほどうれしいときではなく、思いがけなく名前を呼ばれたなどのような、ほんのりとうれしいとき、テスは耳を伏せ、体をくねくねさせながらよちよちと歩み寄ってくる。
なんでもないときでも、「いい子ね」とか「グーッド」と声をかけると反射的に耳を伏せる。「いい子ね」ぱたっ、「グーッド」ぱたっ、のように。おもしろがって何度もやっていると、そのうちやらなくなる。何度やってもほうびが出てくるわけでもないから、つまらないのだろう。
ときどき、呼んでもほめてもいないのに、自発的にそうしてやって来ることがある。あまりにうれしそうなので、「どうしたの?」と訊くと、ますますうれしそうに耳を伏せて、くねくねよちよちする。なんだかわからないけど、こちらもうれしくなって、また耳をさわってしまうわけです。(2004.11.27)
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