犬、その部位別雑記2/目



 耳のと同じく、目のタイプもいろいろあるようだ。ざっと調べただけでアーモンド・アイ、オーバル・アイ(楕円形)、三角目、サーキュラ・アイ(円形)、ウォール・アイ、出目、ホー・アイの7種類があることがわかった。ボーダーコリーの目が専門的にどう呼ばれているのかは知らないが、テスの目は、この7種類のうちではアーモンド・アイに当たると思われる。
 瞳の色は茶色。子犬の頃はかなり青みがかっていたが、大きくなるにつれ茶色が強くなった。けっこう長くいまつげが生えていて、昨年末ごろから白い毛が混じり始めた。もうすぐ8歳になるのだ。白髪くらい出てあたりまえである。
 まばたきは人間ほど頻繁にはしない。筋肉の具合なのか、テスは左目だけまばたきをすることがあり、まるでウインクをしているように見える。
 白目部分は眠くなると充血して赤くなる。そしていよいよ眠くなると、まぶたより先に瞬膜が閉じてくる。このときの顔はちょっとこわい。同じボーダーの飼い主さんで、びっくりして獣医に目薬をもらいに行ったという人がいたが、その気持ちもわかる。
 びっくりしたといえば、犬も目ヤニが出るのでびっくりしたという、オボコいにもほどがある初心者飼い主がいた。異常な量が出るのなら病気を疑うべきだが、犬だって猫だって、目がある動物はたいてい目ヤニが出るのである。
 犬はじぶんで目ヤニを取ることができないので、気づけばいつでも取ってやることにしている。そんなことだから、よその犬の目元にもつい注目してしまう。たまに黒々と目ヤニをたたえている犬に出会うと、取ってやりたくてたまらなくなる。


 ときどき人間用の眼鏡をかけた犬の写真を見かける。なかなか愉快だが、もちろん飼い主さんのおふざけである。
 いったい犬にはどれくらいの視力があるのだろうか。
 手元の新書には「犬は一般にやや近眼」とあるが、犬種や訓練によってかなりばらつきがあるようで、具体的な数字は出ていない。だがテスの行動を考えてみると、あまりよく見えてないんじゃないのかと思うことが多い。
 駅の出口に家人を迎えに行くと、似たような体格、服装の人をしきりに目で追う。あるいは散歩中、ふと見知らぬ人に向かって行こうとする。「ちがうよ」と言っても、そんなの聞いちゃいない。そしていよいよ近づいてみて、はじめて見覚えも嗅ぎ覚えもない人だということに気づくのである。そういうとき犬はじぶんのドジをごまかすということをしないので、まことにあっさりと方向転換をする。相手によっては「すいません、まちがえちゃったみたいですぅ」などと、お愛想のひとつも言わなければならない場合もあり、飼い主としてはいい迷惑である。


 目は口ほどにものを言う。しかし、これはものを言う人間のことであって、犬はほぼ「目でしかものを言わない」。わんわん吠えてなにかを訴える犬もいるが、危険を知らせるといったような緊急時を除けば、たんにしつけがわるいだけであろう。
 子犬の頃は行く先々にまとわりついてきたテスだが、さいきんは別々の部屋で過ごすことが多くなった。それでもたいてい、わたしや家人を見渡せるような場所にいる。いま現在、わたしは自室でパソコンに向かっているわけだが、テスはこちらがよく見えるリビングのソファの上にいる。居眠りをしているようでもあるが、監視は怠らない。わたしがちらっとでも興味を引くようなことをすれば、疾風のように現れるのである。顔があらぬ方を向いていても侮るなかれ。犬の視野は250度くらいもあるのだ。目玉をぎろりと動かせばそれ以上であろう。
 ときどき視線を感じる。さっとふり向くと目が合うが、こちらに“やる気”がないことがわかると、すぐに視線を逸らす。犬はただ見つめ合うのはあまり好きではないようだ。だが、なにかしら要求があるときは別。よちよちとやってきておすわりをすると、こちらがふり向くまでじっと見ている。視線が刺さって痛いくらいだが、散歩とごはんの時間を知らせるとき以外は、退屈なので遊んでほしいか小腹が空いたかのどちらかに決まっている。のべつ応じることは教育上好ましくない。
 というわけで、しばらく無視していると、おすわりをしたまま尻尾をふって気を引こうとする。ふさふさふさふさとけっこううるさい。それでも無視していると手を出してくる。お手の要領でちょいちょいと、人の太ももや脇腹をつつくのである。それでも無視していると椅子の肘掛けの下からぬっと顔を出して、あごを膝に乗せる。そして上目遣いで人の顔をじっと見つめる。そうなってくるとですね、こちらはもうたまらないわけです。おおよしよしと小さな頭を撫でさすり、なぜか都合よくそばに落ちていたテニスボールを拾ったり、クッキーの入った缶カラを取りに行くはめになるのである。(2005.2.5)

参考文献:『イヌの力』今泉忠明著(平凡社新書)


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