でぶジャックの逆襲 〜犬と歩けば2〜



 テスといっしょに知らない道を歩くのは楽しい。いろんな発見がある。
 知らない道といっても歩いて行くことのできる範囲内のだ。いるもとちがう角をまがったり、入ったことのない路地に入ってみるといった程度のことだが、さんざん歩き回ったあげくに、思いがけなくいつもの通りに出たりするからおもしろい。

 さて、そうして初めての場所を歩いていると、あちらこちらから犬の声が聞こえてくる。通り沿いの家やマンションで暮らす犬たちだ。たいてい怒っている。家犬の縄張り意識がどれほどのものかは知らないが、よそ者に立ち入ってほしくないと思っていることは確かだ。テスもそこらへんは心得ているようで、どんなに激しく吠えつかれても応戦したりはしない。

 きのう、散歩中によく出会うジャックラッセルテリアの住まいを見つけた。
 ジャックラッセルテリアはイギリス産の、見るからに活発そうな小型犬だ。小さいけど犬らしいからか、映画やテレビドラマでよく見かける。NHK教育で放送していた「夢見る子犬 ウィッシュボーン」のウィッシュボーンもジャックラッセルテリアだ。
 だが、わが顔見知りのジャックラッセルテリアはものすごいデブである。この犬のデブっぷりについては前にも書いたことがあるので引く。

 さいきんよく見かけるジャックラッセル・テリア。(中略)おっそろしく太っている。顔と尻尾だけは太りようがないらしく、そのため、上から見るとまるで「幻の蛇ツチノコ」である。腹など、めいっぱい膨らませた風船さながらだ。針のようなものでちょっとつついたら漏れ出す空気の勢いでどこまでも飛んでいきそうなくらいパッツンパッツンに張り切っている。(「チワワの子はチワワ」より)

 2年ほど前に書いたものだが、いまでもいっこうにやせる気配はない。
 このでぶジャックがどういうわけかテスを目の敵にしており、会うと必ず猛烈に暴れ狂いながら吠える吠える。その様子はまるで小型の低反発クッションを地面に叩きつけているようで、わたしはいつもつい笑ってしまう。飼い主さんは年配の女性だが、犬同士がそんなふうなので挨拶すら交わしたことはない。

 さて、そのでぶジャックの住まいは一戸建ての、けっこうなおたくだった。10メートルほども手前から声が聞こえていたので、通りから家の中をのぞいてみたら、やつだった。掃き出し窓の網戸越しに、歯をむき出しにして猛烈に吠えている。いつ網戸を突き破って出てきてもおかしくないくらいの勢いだ。「こんなとこまで出張ってきやがって!」ということなのだろう。すいませんねえ。
 間もなく部屋の奧からいつもの飼い主さんが出てきた。「だめでしょ」なんて言いながら、わたしたちのほうを見た。そしてにっこり微笑みながら言った。
「おともだちじゃない」
 ちげーよ。おともだちなんかじゃないやい。(2005.6.6)

▽ウィッシュボーン公式サイト
 World Wide Wishbone http://www.hitentertainment.com/wishbone/index.asp


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