フルート嫌いの犬 その後



 フルートを習い始めて1年になる。その間、なんと、わたしは一度もレッスンを休んでいないのである! 子どもの頃から皆勤賞のたぐいとは無縁だった怠け者にとって、これはたいへんなことだ。これも独自に考案した「怠け癖封じ」のおかげだ。くわしくは「フルート嫌いの犬」(2002.5.15)をご参照下さい。
 というわけで、最初の頃は「メリーさんの羊」さえままならなかったわたしが、いまでは約40曲のレパートリー保持者である。今年のはじめには、自宅に親きょうだいを招き、家人の伴奏で2曲ばかり披露した。このことはいまでも親類縁者の間で「ムリヤリ音楽会」として名高い。

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 本題に入る。もちろん、練習を始めるとこそこそと部屋を出て行っていた我が愛犬テスのことである。これはもう「慣れた」というほかはない。もっとも嫌がっていた時期など、フルートのケースを開けただけで逃げ出すほどであったが、さいきんでは気にもしない。ぐうすか寝ているときに派手な曲を吹いても、薄目を開けて「ふー」とため息をつくくらいのものである。

 ただ、おもしろいことがひとつある。それはテスがフルートのにおいを嗅いでおしっこをすることだ。椅子に座って練習しているとよちよち近づいてきて、吹き込んだ息が抜ける先端部分、つまり足部管のあたりをくんくん嗅ぐ。そしてそのあと必ず室内トイレでおしっこをするのである。
 おまえの笛など聴くに耐えぬという意思表示だと言われればそれまでだが、じつは思い当たることがある。
 テスは屋外でおしっこをするとき、どういうわけか溝蓋やマンホールの蓋など、金属製のものがあるところですることが多い。メスだから高いところにはしないが、塗装がはげて錆びたフェンスの下などですることもある。
 フルートはむかし木でつくっていたために「木管楽器」に分類されるが、いまはほとんどが金属製だ。金属の長い管に温かい息を吹き込むと内側に水滴がつく。そうするとテスがおしっこをもよおすにおいになるのではないのか。なにやらばっちいような話になってきたが、湿ったフルートがおしっこくさいというわけではない。人間の感覚でいうなら、たとえば洗った包丁のにおい、金気(かなけ)くさいとでもいうか、そんなにおいである。
 もしかしたら犬にも「青木まりこ現象(または「青木まり子現象」、または「青木真理子現象」)」のようなことがあるのではなかろうか。
 なんて、相変わらずコリクツだけは一人前である。きょう練習中にテスがやってきて、お昼寝マットの上で居眠りを始めたので、モーツァルトの「子守歌」を吹いてやったら、サビの部分(日本語の歌詞だと「ねむ〜れよ」のところだ)でやおら起き上がり、足部管のあたりをくんくんと嗅いだ後、室内トイレへ行き、それきり戻って来なかった。
 早く犬がすやすやと寝入るような演奏ができるようになりたいものである。(2003.5.12)

◎補足
 わたしはテスを連れて外に出るときは、できるだけ直前に室内トイレでおしっこをさせます。そうすれば外でする量が少なくてすむからです。犬を飼っていてもいなくても、家の玄関先や塀におしっこをされて不愉快な思いをしている人がいます。わたし自身、テスを連れているとき、いきなり「そこで小便させるなよ!」と怒鳴りつけられたことがあります。驚いて声のしたほうを見ると、通りに面した小窓がぴしゃりと閉じられました。その人は、家の塀におしっこをされるのがいやで、ずっと見張っていたのでしょう。
 礼儀正しい飼い主さんの中には、ペットシーツや、洗い流すための水を持ち歩いている人もいると聞きます。そこまでしなくてもとは思いますが、これからは、とくに街なかで犬を飼うにはそれくらいの心構えが必要なのかもしれません。


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