第二章 仔犬がきた!


■仔犬を迎えに行く
 近所なら歩いて行けばいいのだろうが、そうはいかなかった。配達してもらうことも出来るそうだが、ここはやはり車である。なにがなんでも仔犬を連れて帰るつもりだったわたしは、仔犬運搬用の段ボール箱と水、古タオル数枚、そして懐に多めの現金を携え犬舎Sに向かった。

■仔犬を選ぶ
 たくさんの中からたったの一頭を選ぶというのは、すごくたいへんなことである。決まっていたのは雌であることだけだった。
 ありとあらゆる注意事項を頭に叩き込んでいたが、仔犬を見た瞬間、それどころではなくなった。同じ母犬から生まれたはずなのに、それぞれに個性があり、それぞれに可愛いい。「呼んでみたら?」といわれた。全員くる(笑)。目移りしすぎて頭がくらくらした。
 最終的に2頭の候補が残った。スタッフが犬舎の外に出して見せてくれた。双方、発育のいい雌だった。仔犬Aは仔犬Bに比べ黒勝ちのカールのきつい毛並みだった。AはBに比べ、少し小さかった。Aはびくびくしていたが、Bはふてぶてしい態度で肝が据わっているように見えた。そういうわけで、仔犬Bのほうにやや傾きかけたとき、思いがけないことが起こった。仔犬Bがわたしに向かってウィンクをしたのである。どうぞ「ばかめ」とお笑い下さい。わたしはこれで犬を決めました。

 事務所に案内され諸手続きをした。間もなくきれいになった仔犬が、担当の女性に抱かれてきた。受け取ったときの気持ちをどう表現すればいいだろう? まさに至福の瞬間だった。名前はすでに決まっていた。テスである。(→晴犬雨読「犬の名前」参照)
 テスは用意した段ボールに入れると、すぐにぶりぶりと軟便をした。「抱いて行って下さい」と注意された。家に着くまでに4回吐いた。この乗り物酔いは、成犬になるまで続くことになる。


■仔犬がきた!
 リビングの床にそっと降ろすと、テスは不安そうにそこらを嗅ぎ回った。用意したボウルから水を飲む姿を見て、わたしはすごく感動した。
 段ボール製の簡易犬小屋「段ボールハウス」には入ろうとせず、部屋じゅうをうろつきまわり、新聞紙の上におしっこをした。
 落ち着いてから餌をやった。テスはボウルに鼻を打ち付けるような勢いで、がつがつと残さず食べた。何をするにも、見ていて飽きることがなかった。



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