第四章 犬と暮らす
■ボーダー・コリーという犬
詳しくは犬がくるまで参照のこと。
*
テレビや雑誌で取り上げられるようになったとはいえ、家庭犬としては、さほどメジャーではないらしい。「コリーとなにかの雑種ですか?」と訊かれたことがある。
*
「頭いいでしょう!」といわれる。主人の命令に従い、わずか数頭で何百頭もの羊をコントロールしたり、フリスビー大会の上位入賞のイメージが強いのだろう。確かにすごく格好いい。見ていてほれぼれするし、同犬種の飼い主であることに誇りを感じる。だが、うちのボーダー・コリーは羊には会ったこともないし、フリスビーもしないから、そっち方面の能力に関しては未知の可能性としかいえない。それに、いくら褒められても、どれくらい頭がいいのか、ほかの犬と比べてみないことにはわかんないではないか。いまのところ二頭めを飼うなど夢のまた夢である。
■テス
仔犬のころは破壊大魔王の名をほしいままにしていたが、さいきんやっとむやみやたらではなくなった。ゴールデン・レトリーバーのような落ち着きにはほど遠いが、緩急をわきまえて行動しているように思う。
■散歩と遊び
散歩は1日2回。1回につき30〜40分程度。うんちは1回〜2回で、だいたい同じ場所でする。もちろん拾って持ち帰る。色や感触で健康状態を知ることができるし、うんちが立っていたりするとなにかいいことありそうな気がして嬉しい。
おしっこは無制限。ほかの犬がした跡にする。「来たぜ」「来たよ」という感じだろうか。ほんの数滴だったりぜんぜん出なくてもともかくしゃがむ姿がいじましい。
*
仲良しの犬に会うと喜ぶが、いつまでもじゃれついているときもあれば、妙に淡泊なときもある。それに引き替えダメな犬はとことんダメで、全身の毛を逆立てて猛烈に吠える。尻尾など日比谷公園の大噴水のようである。相手は黒ラブからMダックスまで、何が気に入らないのかさっぱりわからない。
相手が加減を知らない仔犬だったりすると教育的指導を行うこともある。
*
現在、外遊びは常に散歩の延長線上にあるので、テスがどこからを遊びとみなしているのかは不明である。
近所に無料のドッグ・ラン(ただの空き地)に行くことがあるが、未知の犬コミに新規参入するのはけっこう難しい。これも一種の公園デビューである。飼い主との交流ははっきりいってどうでもいいが、ノーリードにする都合上、ある程度の情報交換は不可欠。予防注射をしていなかったり、また、性格のいい犬ばかりとは限らない。どこぞの大型犬に、出会ったとたんにがぶっと耳を噛まれ、蹴飛ばしそうになったことがある。
*
もっとも単純な遊びはかけっこだが、人間が走らないと走らない。なんで?
*
室内同様テニスボール大好きだが、屋外だとあっという間にヨダレで泥だらけになる。ある日、ひとりでドリブルの練習をするサッカー少年に会った。テスは勝手にディフェンダーをつとめ始めた。ちかごろでは希に見る好少年だったからよかったようなものの、飼い主としては冷や汗ものである。後日、幼年向けのボールを買い求めた。蹴ってやるとしばらくは鼻でつついて追いかけるし、汚れても洗えるのでまことに都合がよい。
*
さて、十八番のフリスビーだが、なんにも教えなくても見事にキャッチする。さすがボーダー・コリー。だが、絶対に返してくれない(笑)。それ以前にわたしはフリスビーを放るのがすごく下手である。まずはそこからか。
■群れ意識
テスはじぶんを含めた家族を群れと見なしているようだ。たった3頭の群れではあるが、全員で行動することを非常に好む。そしてじぶんだけ取り残されるのは悲しい。わたしと夫が別々に出掛けるときは「そうですか」という態度だが、2人一緒に出掛けるときはすごく悲しい。心外中の心外という感じである。
群れ内の順位については、うちの場合謎である。ただ、夫が散歩させるときのほうが強気らしいので、体積が勝っているほうが、後ろ盾としてより強いのだろう。
群れ内の抗争に関しては無関係を装う。夫婦喧嘩は犬も喰わない。
■留守番
都合半年ばかり共外働き状態だった。労働時間帯のズレから、通常10時間以上に及ぶ日はなかったが、たまにふたりして飲んだくれて帰らないこともあった。テスは実によく留守番をしてくれたし、わたしたちも実によく犬を放っといた。としかいいようがない。いまはわたしが家にいるので、終日ラブラブ状態である。
旅行するときはかかりつけの獣医に預ける。一泊5000円(ごはん散歩込み)。
■ごはん
成犬用のフードに野菜の水煮を混ぜて与えている。夏場はスタミナをつけるために鶏のササミや軟骨を茹でて加えることもある。(鳥Sさんごめんなさい。おすすめの軟骨は人間じゃなくて犬が食べています)
*
野村潤一郎氏の『犬に関する100問100答』にもあるが、テスのいちばん好きな食べ物はわたし及び夫が好きな物である。気を逸らすために、なるべく同じ時間に食事をするようにしているが、食べ終わるとすかさずやってきて、テーブルの下で「下さい」を始める。もらえれば何でもいいらしく、きゅうりの切れっ端やそうめん一本でも、実においしそうに食べる。のべつあげるのもよくないので、いい加減与えた後はひたすら無視。そのうち諦めて食後のうたた寝に入る。
こういうことを続けていると、たとえば外食時などにテーブルの下が寂しい。野菜やお肉の端っこを見ると、つい、居もしないテスにやろうと思ってしまう。
ごはんとおこぼれ以外は、犬ガム、ご褒美用の鮭チップ、ボウロちゃん、あと高級手作り犬クッキー。都内某所で好評発売中。通販あり。
■ダイエット
テスの場合17キロ強がベストと思われるが、そのころは19キロを越えていた。おすわり状態を上から見ると、まるで茶筅茄子だった。かかりつけの獣医師から「太りすぎというわけではないけど、ボーダーとしてはちょっとねえ」といわれた。人間同様、健康的には問題ないが美容的にかっちょわるいのである。テスを痩せさせるのは簡単。心を鬼にしてごはんとおやつを減らすだけ。
■病気と怪我
仔犬のころは下痢がちだったが、いまは健康そのもの。
*
もっとも心配したのは血便が出たとき。軽い腸炎と診断され、餌に混ぜて与えるタイプの粉薬をもらった。薬がなくなる前に完治。
*
テスは肛門腺に分泌液が溜まる。うんちのときに一緒に出るものだが、出し切れない場合もあるそうだ。知らずに放っておくと破裂することもあるという。切除手術を受ける犬もいる。
分泌液が溜まると、おすわりをした姿勢でそのままずるずると、尻を床や地べたに擦る。そのせいで肛門が爛れたりするので注意が必要である。シャンプー&トリミングに出すと絞ってくれるが、テスの場合それでも追いつかない。獣医師やトリマーさんに絞り方を教わるが、なかなかうまく行かない。慣れるしかないようだ。出るときはぶじゅっと音をたてて、滴るくらい出る。分泌液はイカスミを薄めたような感じですごく臭い。絞ったあとは肛門にベビーパウダーをはたく。
*
大怪我をしたことはない。パッドに画鋲が刺さったことあるが、テスはじぶんでくわえて引き抜き、まるで何事もなかったかのように散歩を続行した。帰宅後、人間用のマキロンで消毒。
画鋲が落ちていたのは選挙ポスターの掲示板の前だった。血を見て逆上したわたしは、どこのクソ野郎の仕業かと管理機関に怒鳴り込む決意をしたが、行く前に怒りすぎて具合がわるくなってしまった。
■乗り物酔い
乗る前は絶食させるし、乗車中はわたしの膝の上でうずくまっているので、どの程度酔っているのか判然としない。ただ、成長につれヨダレの量が減ったように思う。近年の実績では、東京〜南箱根間で嘔吐したのは行き帰りを通じて一回だけ。訓練によっては克服できるような気がする。
酔い止めの薬は使ったことがない。また、常に車を降りればけろりである。
■シャンプー及びふだんの手入れII
シャンプー&トリミングは完全にプロ任せである。中型だが大型扱いで9000円。飼い主の散髪代よりはるかに高いが、頭のてっぺんから脚の先までうっとりするくらいきれいになるし、身体に異常があれば教えてくれる。
ふだんの手入れとしては、まずブラッシング。テスは柔らかい直毛なので櫛のほうが都合がよい。半立耳なのでカビの心配はないが、ときどき耳掃除もする。
さいきん気になるのは歯石で、粗い布製の犬歯磨きで擦ったり、マキシガードという薬液を注す。目につくところは、人間用の爪の手入れ用具でこそげ落とすこともある。(ただしまとめてぱりっと落ちるような塊に対してのみ)
犬の歯石除去は全身麻酔と聞いた。先々のことを思えば考えなくもないが、麻酔と聞くとやはり二の足を踏む。
■どこまでわかっているのか
人間と同じように理解しているとは思わないが、以下、いえばその意味に沿った反応をする語群。
「待て(Wait)」「おすわり(Sit)」「Down」「Roll over」「だめ」「いけない」「ワンツー」「ちー」「おはよう」「ただいま」「お腹空いた?」「〜食べる?」「おさんぽ」「雨こんこん」「お留守番」「(誰かを)起こしてきて・呼んできて」「ちょっと待ってて」「もう寝るよ」「お仕事」「しない」「〜を持ってきて」(おもちゃの名前をいえば持ってくる)
*
人間の声以外では電話の音。固定電話はもちろん、携帯にも反応する。散歩中に通りかかった家の中や、テレビの中で鳴っている電話の音にも反応。車の騒音などで携帯の着信音に気がつかないとき立ち止まって教えてくれるので便利。
また、玄関チャイムが鳴ると喜びいさんで飛んでいく。うちに来る人はみんないい人らしい。
*
わたしは常に張り込まれている。パソコンに向かっていて、たとえばそろそろ一段落というときに、開いているファイルやウィンドゥをたたんだり、使用していたメディアを取り出したりすると、どこからともなく飛んでくる。音を立てなくても、ふっと気を抜いたとたんに飛んでくることもある。油断もスキもない。
*
読心術。わたしがわけもなく苛ついているとき、玄関の隅っこで丸くなっている。すまない。
*
第六感。もうただただ驚きである。夫の帰宅時間はテスを見ていればわかる。何をしていてもにわかに落ち着きがなくなるのである。直前になると玄関で待機。
帰りがタクシーでも同じである。マンションの前でタクシーを降りるのは夫だけではない。テスがそわそわしだしたら、夫は間違いなく次に停まったタクシーに乗っている。夫以外の人物が降りたと思われるドアの開閉音(夜中はけっこう響く)には微動だにしないのも不思議である。
*
怪我や虫さされのなどの患部を舐めてくれる。腹痛のときお腹を暖めてくれる。泣いていると慰めてくれる。うそ痛やうそ泣きはすぐバレる。
■マンションで犬と暮らす
ペット可マンションに住んでいる。私鉄の高架にほぼ接するように建っていて、オーナーの奥さんは最上階の自宅でピアノを教えている。そういうわけでちょっとばかりうるさいのでペット可にでもしなきゃと思ったかどうかは知らないが、それなりにいい家賃である。ペット専用の設備はない。
隣の部屋は猫を飼っている。Mダックス、エアデール・テリア、キャバリアなどがいる。オーナーはペットを飼っていないが犬好きで、飼い主同士及びほかの住人との関係も、いまのところ良好である。
一度だけ、直下階の住人から騒音についての苦情を頂戴したことがあるが、原因は飼い主の夜更かしで、付き合っただけのテスはわるくない(笑)。
■買い足したものII
フードのストック容器。かわゆいスコップなどが付いている犬専用のものは高いだけ。人間用の乾物類などを保存するものにした。スコップは結婚披露宴でもらった、新郎新婦名前入り一合升で代用。
チョークタイプの首輪。引っ張り癖を直すために購入。役に立っているかどうかは不明だが、首輪のように抜けないので安心。うげっとなってもテスはへっちゃらである。
■いらなかったものII
ポータブル水入れ。取説通りに使用すると水が漏れる。さすが輸入品。わはは。というわけで、従来通り空きペットボトルと登山用品のコッヘルを使用している。
教育用胴輪。引っ張ると前肢の自由がきかなくなる仕組み。いちいち面倒。
クリスマス用ぼんぼん付き帽子。似合わない上に異様に嫌がった。
臍天記目次|第一章|第二章|第三章|第四章|第五章|HOME
Copyright (c) 2000 by ShiroMimi and Dog-Ear Press.
All rights and bones reserved.
Comments are welcome. Please mail to border-c@m78.com, thank you.